02

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「お前、相棒は?」

「レイジー!」

「……レイジーは相棒いないのか?」

面倒な奴だ。
一々相手を呼ぶにしてもワンクッション必要になる。

「いるよ、上に、いつも一緒に、僕と一緒に!」

「上?」

上を見上げても、見えるのは遠くの人工太陽のほの明るさと星空だけ。
何かが飛んでる様子もない。

「どこに?」

「……隠れちゃったかな?」

初めて感じたこいつの躊躇、というか感情の変化。
笑顔には変わり無いが、何か違う感情が混じっていた。
それが悲しみか寂しさか、判断しかねるが。

「どんな相棒なんだ?」

道中の暇潰し程度に聞いてみた。
するとこいつは見るからに笑顔を深めた。

「鴉! 大きな鴉! 鷹くらいに大きな鴉!
真っ黒で、凛々しくて、速く飛ぶ鴉! 名前はエリザベス! リジーって呼べばすぐに来てくれるんだ!
ザジの相棒は?」

「ヴァシュカだ。見ての通り黒豹。ヴァシュカって呼べよ」

「よろしくヴァシュカ!」

笑いながらヴァシュカに話し掛けるが触れようとはしない。
ふと、その理由が分かった。

「撫でて良いんだぜ?」

「本当!?」

「ああ」

相棒を他人に触らせるのを嫌う奴もいる。
前にそれで揉めていた奴を見た。
だから触らなかったのだろう。
結構そういうの気にする奴なのか、とヴァシュカを撫でてるであろうレイジーを見た。

「はわーかっくいー!」

「……」

確かに言われるまで触らなかった。
が、許可を得た瞬間から頬擦りするのはどうなのだろうか。

「そろそろかな? 鎧虫ポイント、この近く?」

「あ?」

話している間にそんな所まで来たのか。
意外にも早く着いた事に、はたと思い立った。

「(これが狙いで館長はオレとレイジーを……?)」

考えようとして中断した。
ヴァシュカが唸りだし、レイジーが心弾銃を構えたからだ。

「群れの鎧虫、レッドかな?」

「見てもないのによく分かるな」

感心して言うとレイジーは引き続きニッコリ笑った。

「地響きが、複数だから」

言われてみれば地面の揺れは一匹のそれではない。
BEEの古株。
その言葉は本当らしい。

「僕がレッドを引き付けるから、ザジが狙い撃つんだよ!」

「はあ!? ちょっ!」

「出でる飛弾は『悦楽』の欠片……」

レイジーは、まだ鎧虫も出てきていないのに心弾を銃に装填し始めた。
そして光を放つ心弾銃を持ったまま走り出した。

「奏でろ、銀旋(しろがね)!」

レイジーは何もない所に心弾を撃った。
何やってんだ、と叫びそうになったが、次の瞬間合点がいった。
そこに向かって地中にいた鎧虫が這い出てきて、集まりだしたのだ。
ココロに飢えた鎧虫。
出てこないわけがない。

「って、何て事しやがんだテメェ!」

叫びそうになった、とは言ったが結局叫ぶことになった。
あろう事か、レイジーが鎧虫の群れの中に飛び込んで行ったからだ。

「あははははは!早く弱点(スキマ)狙いなよー!」

ぴょんぴょんと飛び回るレイジー。
紙一重で避けているから見ていてヒヤヒヤする。
間髪入れずに青棘を放ち、ヴァシュカをレイジーの援護に行かせたのは言うまでもない。










「ザジって優しいんだ」
レッドを全て倒し一息ついた時、不意に言われた。
「あ?」と言いながら顔を向ければ、会った時から変わらないニコニコとした表情。

「僕に当たらないように、僕が傷つかないように、僕が鎧虫に捕まらないように、心弾を撃ってたよね?」

「……たまたまだっつの」

実際は、当たらずとも遠からず。
レイジー背後を鎧虫が取るたびに内蔵がヒヤリとした。
亡くした両親を、思い出すのだ。
まあ、そのいくつかは杞憂に終わり、他のいくつかはオレが仕留めた。

「うん、やっぱり優しい」

ニッコリと、真っ直ぐに言われた。

「……っせーよ」

照れる程ではないが、流石に目は反らした。










配達も終わり、帰路も問題なく進む。
会話などは成立せず、ただ黙々と進む。
こんな単調作業の中でもレイジーはニコニコとしている。ここまで来るといっそ清々しい。

その清々しさに不気味さを感じ始めて、オレはレイジーの少し後ろを歩いていた。
見えないその表情は、いつもと違わぬ笑顔のまま。でも、後姿を見てはたと気づいた。
コイツ、レイジーの後姿が思いの外孤独だという事に。

ただ単に相棒がいないせいで物足りなさを感じるだけかもしれない。
しかし、レイジーはそういうのとはまた違う気がした。
普通に誰かと一緒にいてワイワイしているのならその中に紛れてしまうような存在だ。
でもコイツは一人の時でも、感情の起伏が無い。起伏が無いというか、上がりっぱなしである。
今だってオレが少し離れたにも関わらず一人楽しそうに歩いている。

酷く、滑稽に見えた。

帰り道、その事だけがココロに引っかかって止まなかった。
やがてずっと一緒にいるうちに、その違和感も薄れていった。


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