09

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てんやわんやの騒ぎで、話しかける暇も無くラグは玄関から飛び出して出て行った。
コナーが慌ててそれに続いて、置いてけぼりを食らったオレは取り合えず転がっているレイジーを立ち上がらせる。

「お邪魔しまーす。あ、こんちわ副館長」

「戻っていたのねザジ、それにレイジーも」

何時もの制服よりもカジュアルな服を身に纏った副館長。
あ、そういえば。

「副館長、ロイド館長が早く戻ってきて欲しいそうです」

「気にしなくて良いわ」

「……」

前々から思っていたが、副館長って館長に対しては少しSだと思う。
今だってとびっきりの笑顔で即答された。

「あの、貴方達は?」

先程からオロオロと副館長と此方を見比べていた、車椅子に乗った女。

「お前がスエード妹?」

「スエード妹って……まあ、そうよ」

「飯もう食べた?」

「は?いや、まだですけど」

「マジで!?助かったー。帰館してすぐ締め出されたから腹へってさぁ。なんか無い?」

これは郵便館を出た時から決めていた事。
所謂残業手当って所だ。

「あ、オレはザジ。こっちは「レイジー!」……で、ちょっと前にラグと仕事した仲だ。よろしくなスエード妹」

「あ、うん、よろしく。あとスエード妹はやめて頂戴、シルベットで良いわ」

「じゃ遠慮なく」

館長の言い付けは守った。
『連れて帰って来い』なんて言われてないし。
それよりも腹が減った。
そう思った瞬間、オレの心の声を代弁するかのようにレイジーの腹の虫が鳴った。

「あは、お腹空いちゃった」

頭を掻きながらケラケラと笑うレイジー。
それを見てスエード妹、シルベットはクスクスと笑いながら食卓へ案内すると言って方向転換した。










「しっかしやっぱりパンツが絆ってのは、なあ?」

「あっはは! 面白かったよ!」

ニッチのパンツに対する固執を聞いて、オレとレイジーは一緒になって机を叩きながら爆笑した。
ついでにゴーシュ・スエードの事も聞いた。
まさか略奪者になっていたとは思わなかった。ってか生きてたんだ。
その後はゲボマズスープから逃れるように家を出た。

「取り合えずラグかコナー見つけようぜ。ニッチを捜すにしたって『もう見つけてました』って言われたらアホらしいからな」

「あっちにいるよ」

「マジで? 相変わらず見つけんの早いな。リジーか?」

「おぅともよ、ハニーウォーターズの地下通路でもリジーが道案内してくれてたんだから!」

オレはいまだにリジーの姿を見た事は無い。
だが、レイジーが当然の如く「いる」と言うのだ。
しかも相棒がいなければ到底できない事もしている(地下通路の案内然り)ので漠然と「いるんだろうなぁ」と思っている。

「おーい、ザジー、レイジー!」

噂をすればなんとやら。
道の向こう側からコナーが汗だくで走って来ている。

「ニッチ、見つかったかコナー?」

「い、いや、まだ、だけど……ごめ、待って」

ゼェゼェと息を整えようと必死なコナー。
レイジーが笑いながら背中をさすっている。

「大丈夫ー?」

「だ、だいじょぶ、だから……ちょ、それは……」

「……なんだよ」

レイジーに受け答えながらオレをチラチラ見るコナー。
……なんか胸糞悪い。

「おら、もう良いだろ。行くぞ」

「はいなー、先行っちゃうよコナー!」

「ま、待ってよぉ!」

凪いだ風に頬を撫でられ、少し苛立った感情が収まった気がした。

暫くレイジーについていくように進んでいるとちょっとした喧騒が聞こえてきた。
遠目にしか見えないが、あっちの方でとんでもない事をしているのが見える。
かなり高い所をどっかの大道芸人が綱渡りしているのだ。
オレ達が同時に走り出した時、レイジーが何事かを呟いた気がしたが声が小さすぎて聞こえなかった。

走っている途中、綱を結んでいた煙突が崩れるという事態になったが、余計な心配となった。
近くに行けば無事な姿の大道芸人がいたからだ。

「ゴベーニさん!」

一番手前側にいる男を目指しながらコナーが言う。
なるほど、確かにあのシルエットはシナーズのおっさんだ。

「ニッチとラグもいるー」

「お、ホントだ」

レイジーの指差す先を見ればラグがニッチに説教をしている最中であった。

ふと上を見上げれば、崩れた煙突の欠片がまだパラパラと屋根から降って来ていた。
比較的大きな瓦礫は、幸運にも通行人には当たらなかったらしく道路に散在している。

「(……あ)」

今落ちてこようとしている少し大きいレンガの欠片。
ガラッ、と音をたてて屋根から滑り落ちたそれの真下には、野次馬の一人がいた。

声をかけようとした。
でもその必要は無くなった。

不思議な光景。
落ちてきたレンガの欠片が、不自然な軌跡を辿って野次馬の少し横に落ちたのだ。

「ぅわ!っと……こりゃ危ないな」

「ああ、早いトコ屋根の上を片付けるか」

「落ちてきたレンガも掃除せにゃならんよ」

まだ先ほどの綱渡りの余韻が残っている中で、野次馬と隣人達が片づけを始めた。
それを見たラグが無駄に謝りながら手伝うのを見て、コナーが「ぼくらも手伝おう」と言った。
さっきの光景が頭から離れないオレは生返事をしながら振り返る。

「なあレイジー、今の……」

見たか?

そう言おうとしてそこで止まった。
レイジーが左腕を、肘を曲げた状態で地面と水平に上げてにっこり笑っていたのだ。
それに、風も吹いてないのにレイジーの髪の毛が不規則に浮き沈みしていた。

「いいこ」

レイジーはまるで腕に鷹か何かが留まっているかのように、何かを撫でる動作をしている。



オレは初めて、レイジーの相棒を見た気がした。


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