05

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「驚いたよ。まさかあそこでエドが俺を指名するとは思わなかった」

旅券を受け取った後、直ちにバチカルを旅立ったエドガーとガイ。屋敷で起こった一連の事をガイがエドガーに話した後、二人は黙々と進み続けた。時には魔物を退治しながらという旅路の途中、幾らか余裕ができたガイが口を開いた。
それを聞いたエドガーはチラリと隣を歩くガイを見て、いつもの胡乱気な目をした。

「『旅は道連れ世は情け』ってな。誰がこんな面倒臭い仕事一人でやるか」

「っ、おいおい……ルークの前では言わないでくれよそれ」

少し言葉に詰まったガイは眉をハの字にしてエドガーを見やった。もしこの言葉をルークが聞いたらショックを受ける事は間違いない。それ程ルークはエドガーに懐いている。
ガイの言葉に構わずエドガーは前を見て言葉を続けた。

「それにお前、なんだかんだルークが心配なんだろ」

「え?」

「俺がご当主と話してる間、お前の目の前に鏡用意してやりたかったなぁ」

エドガーとクリムゾンが話していた時、ガイはそれはもう泣きそうなのではないかと言う程沈んだ表情をしていた。
しかしこれはあくまでもエドガーからして見ればと言う事だ。ガイの顔を見れない位置にいたクリムゾンや白光騎士団、エドガーを観察していたヴァンは気付いていない。

「……そんなに酷い顔だったかな」

「そうだな、俺が思わず情けをかけるくらい」

「即答しなくても……」

爽やかに苦笑いしてみせるガイを、エドガーは今度は見る事無くスタスタと進む。
草むらから這い出てきた魔物を左足に装着している剣を抜いて一刀両断するも、その歩みは止めない。今日にも砂漠を抜けてケセドニアへ到着しようという勢いである。

「そういうエドだって心配みたいだな。歩くスピードが速いじゃないか」

ガイがささやかな逆襲に出た。それを聞いたエドガーは、表情は変わらず、だが声色は深刻その物として答える。

「謡将がルークに教えた剣は初歩の初歩だ。あの状態で外に放り出されて魔物にでも襲われたらルークじゃ力不足だろうよ」

「……」

「ティア嬢が本当に兄貴の仇討ちを目的とし、不慮の事故で疑似超振動を起こして結果的にルークを攫い、ルークに罪悪感を憶えて護衛をしてくれるなら良い。
だがもしそうじゃなかったら?」

「……」

「俺は傭兵で、金を貰って仕事をするのが生業だ。与えられたルーク捜索と言う任務は勿論ルークの“死体捜索”である筈がないからな。仕事を全うするには生きたルークを保護せにゃならん」

エドガーの言葉を黙って聞いていたガイ。暫く沈黙が続いた後、ガイが感心したように息をついた。

「流石だな。俺はヴァン謡将の言う事全部を鵜呑みにしていたよ」

「それは仕方の無い事だろう。こっちは絶対的に情報が足りない」

「エドと一緒に旅が出来て心強いよ」

「俺に頼るな面倒臭い。働け若造」

「アンタだってまだ三十路だろ!」

「あ? 成人して一年しか経ってないガキが何ほざいてやがる」

「ホントにエドって敬語使ってる時と素の時のギャップが激しいな」

「多分お前には劣る」
なんせお前元は貴族らしいからな。
「……それは勘弁して欲しい」

面白いように続いている会話ではあるが、この会話は魔物の群れと対峙している最中になされているものだ。
ガイは長剣の長いリーチと俊敏性の組み合わせを生かしている。対するエドガーは普通の剣と短剣を器用に使いこなし、急所を狙った一撃必殺型の攻撃を好んでいるようだ。
二人、と言う動きやすい人数な事もあり、エドガーとガイは昼過ぎに砂漠の入り口へ辿り着いた。





結局、エドガーとガイの旅の初日は急ぎに急いで砂漠のオアシスで泊まった。思いの他砂漠で足止めを喰らったのだ。その代わり、次の日の早朝にオアシスを出ると昼頃には国境の自治体ケセドニアへ到着した。

旅は順調、の筈だ。しかし、ケセドニアに入った時からエドガーの口から何の音も発せられなくなった。つまりは喋らなくなった。ついでに言うと今まで以上に早歩きになった。
何かあったのか、と声をかけようとした瞬間、ガイの心の声を聞き取ったと思える程のタイミングでエドガーが止まったそして彼はその場から動かない。
今度こそ何事かと思い、ガイがエドガーの肩に手を乗せた。

「なあ、さっきから一体どうしたんだ?」

「……あー、まぁ少し会いたくない人に会ってしまったって所か」

「は?」

今までガイから見えない位置であった場所には、数名の男性が立っている。ガイもエドガーの肩口から見えたその少人数の隊列のような光景を目にし、警戒心を強めた。
ガイの警戒心を感じ取ったのか、エドガーがひそりと苦笑いをしてガイの肩を軽く叩いた。

隊列の中央には背が低く派手な格好をした男が満面の笑みでエドガーを見ていた。その笑みは、例えるならばお気に入りの玩具を見つけた子どものニヤニヤとした笑顔。しかし、子どもの純粋なそれとは違い、明らかに裏のある笑顔である。

「やあエドガー君。久しいじゃないか、イヒヒ」

「……どうもアスター氏、ご無沙汰しておりました」

ガイは見た。「面倒臭い」と言いながらもなんだかんだルークの我侭を聞き届ける程器の広いエドガー。その彼が珍しくも本気で嫌そうな表情をするのを。


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