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再びここはコーラル城一角の屋上前。屋上へ出る階段の前ではエドガーが、右手に剣、左手に大きめの譜銃を持って立っている。その姿を見守る他の面々。
この状況になった理由を説明するには少し時を遡らなければならない。





「お前らエドの事馬鹿にしてるだろ!」

ことの発端は「譜銃に慣れないならいっそのこと前衛をしませんか?」というティアの悪気無い一言だった。その言葉にルークが「エドが譜銃に慣れてないわけ無い、むしろ剣より銃のが得意だ」と自分の事のように言い、それを受けてティアが「え? じゃあ前衛は苦手って事?」と勘違い。それに便乗するジェイドとアニス。トントン拍子にルークが安い挑発に乗り、先程の叫びへ続いた。

「エド! エドなら前衛だって譜銃だって簡単にできるよな!?」

「……簡単とはいきませんが、前衛なら本職ですし、譜銃の扱いにもそこそこ慣れてはいます」

「だったらコイツらに証明してやれよ!」

そしてエドガーは右手に剣、左手に譜銃を構える羽目になっていた。彼は吐き出しそうになる溜息を寸でで我慢し、気を取り直して屋上へ目線をやった。

「一応、援護の準備をお願いしてもよろしいですかな。何がどうなるのか分かりませんので」

「いらない癖に……」

ルークの呟きに身を強張らせるエドガー。別に図星を付かれたからと言う訳では無く、ただ単にこれからのパーティ内での友好関係を最低限良好にするのに懸念材料が増えたからである。

「一応だから、な? ルーク?」

空気を読める男、ガイがこの場をフォローするもルークはまだぶすくれている。止めていた溜息を我慢するのも忘れてエドガーは吐き出す。しかし日常的にされている動作を気にするようなルークでは無い。溜息を吐いてもお咎めなしとされた。

「……では」

エドガーが譜銃に音素が装填されている事を確認して外の気配を探る。一定の間隔で聞こえて来る羽音と獣の唸る声。あちらには魔物がいる。既にエドガー達が屋上の手前まで来ている事はアリエッタ――神託の盾騎士団第三師団師団長は気付いている筈。その事を認識しつつ、エドガーは神経を研ぎ澄ませ、足の爪先に力を入れた。







魔物の一番のアドバンテージの一つとして、その機動力がある。人には成し得ない瞬発力と速さは戦闘に置いて脅威である。そんな絶対的に超えられない壁も、崩し様による。つまりは、その機動力を無力化すれば良い。
エドガーはその理屈に則って、まずはフレスベルグ――空を飛ぶ魔物で、機動力で言えばこの場で最高を誇るだろう――の、翼となる部分の付け根、大体肩甲骨の辺りを打ち抜く。彼が大型の銃を装備した理由がここにある。魔物の骨は大抵、人間のそれよりも頑丈だ。ちょっとやそっとの打撃や銃撃ではびくともしない。それが訓練された魔物なら尚更である。大型の銃であれば少し照準がずれたとしても、当たれば飛行の妨げになる。と言っても、彼は寸分の狂いもなく目当ての箇所への譜弾の射撃に成功した。ルークが自分の事のようにエドガーの銃の腕前を自慢していたのも頷ける。フレスベルグは片翼を不能にされて旋回しながら地面に降り立った。

「ベル!!」

どうやら傷を負ったフレスベルグはベルと言う名前らしい。妖獣のアリエッタがフレスベルグの怪我を見てからエドガーを睨む。彼女は常日頃から師団に所属している魔物を「お友達」「兄弟」と称している。思い入れは半端な物ではないだろう。

「どうして邪魔するの!? ママの仇なの! どいてよぉ!」

ママの仇とは、そのままの意味だ。ジェイドを初めとするルーク一行はエンゲーブの近くの森にいたライガクイーンをやむなく殺した事である。
しかし、エドガーにとってそれとこれとは別の問題だ。今エドガーにとって重要なのは、雇い主の息子の顔に泥を塗らないこと。ルークが「エドは強い」と言えばそうあるべきで、彼の期待に応えるべきなのだ。

だから、エドガーは今度こそ躊躇なく引き金を引き、そして刃を振るった。


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