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エドガーとガイが下の階まで、つまり大きな譜業があった所まで降りていくと、その譜業にはルークが横たわっていた。傍らには烈風のシンクもいる。

「あんのっ……!」

エドガーの隣を走るガイがより一層スピードを速めた。彼はシンクをルークから遠ざけるように二回三回と攻撃を仕掛ける。

「エド、ルークの所へ。私が電源を落とすまで譜業には触れないでください」

後ろから聞こえたジェイドの声に、エドガーは返事もせずそのままルークの所に。剣を抜いて警戒しつつ、ガイ烈風のシンクの攻防を見る。

― キィン ―

そんな最中、ガイがシンクの仮面を弾いた。

「あれ? お前……?」

ガイが思わず、と言ったふうに呟く。しかしエドガーからはその言葉を拾う事は出来なかった。エドガーからはガイが間にいる為に、シンクの顔を見る事は叶わない。それでも何かあった事には気が付いたらしい彼は警戒を強めた。
と同時に、動きを止めていたガイが吹っ飛んだ。シンクがガイを蹴り上げたようだ。

「今回は正規の任務じゃないんでね。この手でお前らを殺せないのが残念だが、アリエッタに任せるよ。アリエッタは人質と一緒に屋上にいる。振り回されてゴクロウサマ」

言うや否や、シンクは颯爽とその場を去って行った。武器を構えていた一同は、警戒を怠る事は無いが各々の得物を下げた。その後、数分もせずにルークを捕えていた譜業が起動停止した。いち早くエドガーが譜業の中に入りルークを助け起こす。

「ふぅ、……何がなんだか」

頭が痛むのか、ルークは米神を押さえながら起き上った。後ろにいたティアやアニスもルークに駆け寄る。

「大丈夫? 外傷は無いようだけれど……」

「ああ、怪我はねぇ。頭がちょっとぐらぐらするくらいだ」

その言葉にティアはホッと息を吐く。急を要する治療は無いからだ。その隣では「ルーク様に大きなお怪我が無くて安心しましたぁ」とアニスが言っている。

「おう、心配かけたな」

「ルーク様」

ルークを助け起こしたエドガーが、その名を呼ぶ。いつも以上に改まった様子のエドガーに一同が違和感を覚えた。そしてその違和感が拭われない内に、彼はルークの前で跪いた。

「「!?」」

「申し訳ありません。傭兵でありながらルーク様をお守りできなかったこの失態、如何様にも処罰を受ける所存です」

皆が皆、エドガーの行動に驚いている。幼獣のアリエッタがルークを連れていった際、確かに取り逃がしたのはエドガーになるだろう。しかし、一番ルーク救出に専念していたのもエドガーだ。ここで彼を責める者がいるはず無い。

「全くだぜ! なんで撃たなかったんだよエド!」

ただし、一人を除いては。
彼の主(厳密には依頼人の息子だが)は、彼が譜銃を構えていながら撃たなかった事にご立腹のようである。

「エドならあの魔物だけ撃ち落とすくらい訳無かっただろう!?」

自分がこんな目にあったのが不甲斐無いのか、はたまた自分が信頼している者が期待通りに動かなかった事への憤りか。ルークはエドガーがあえて撃たなかった事を怒っていた。見かねたティアが怒っているルークの肩に手を置いて宥めるように口を開いた。

「ルーク、エドはあなたを思って撃たなかったのよ? そんな言い方無いわ。第一あの時もしもグリフォンだけを狙って撃てたとしても、その後急降下してあなたが怪我したんだから。そうでなくてもあの状態で撃てばルークに当たる確率の方が高いのよ」

「ふざけんな! エドは絶対外さねーよ! 絶対だ!」

しかし、事もあろうにルークはエドガーを庇うような物言いをした。怒るルークから、エドガーを庇おうとしたティアにしてみれば思ってもみなかった展開だ。彼女は思わず閉口した。他の面々と言えば、ルークの使用人であるガイはクスクスと笑い、ジェイドは面白い物を見るように口に手を当てている。アニスは事の展開に若干ついて行けないのかポカンと呆けている。話題の張本人であるエドガーは未だ跪いたままだ。そんなエドガーを振り返ったルークは「立てよエド!」と、まだティアの言葉に憤慨しているような口調で彼を立たせた。

「いいかエド、次あんな事があっても絶対撃つのを躊躇うんじゃねーぞ! エドは絶対的を外さない事を俺は知ってるんだからな!」

「それではルーク、貴方はまた敵の手中に捕まってしまうという失態を犯すのですか? いやはや、ルーク様のお守は大変ですね」

「うるせー! 次はねーよ!」

ちゃちゃを入れるジェイドに対しても大真面目に返してしまうほど気が立ってしまっているルークに、ようやっとと言っても良いが、ガイがフォローを入れようと口を開いた。

「ルーク、エドが今日みたいな事を繰り返すとは俺も思えないさ。だからここは抑えて、な?」

ガイは知っていた。こうなった時のルークはちょっとやそっとじゃ止められないが、エドガーを理由にすれば一応止まる。以前もこういう事があったから、確信がある。

「……分ーったよ」

ガイの予想通り、ルークは引き下がった。

「でも次はねーっていうのは本当だからな!」

大人げない一言を加えてしまう所はまだまだといった所だ。

今までの様子を黙って見ていたエドガー。
自分の事で騒ぐルークを見て、俯く。俯いたまま人知れず少し微笑んでいた事は、神のみぞ知る。


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