七年前のある日
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今日も今日とて預言通り快晴。そんなピクニック日和でも仕事をしている者にとっては関係は無い。
バチカルで快晴の空に一番近い階層、最上階でもそれは同じ。
本日も俺ことエドガー・アルタスは仕事のためにファブレ邸に赴いていた。
ファブレ邸に入るのも二週間もすれば慣れたもの。門番に一言二言声をかけて邸内へ。そのまままっすぐファブレ家の御曹子、ルーク様の部屋へ行く。
ルーク様の部屋の戸を叩けば、中から「どうぞ」と声が返される。ドアノブを捻り中にはいる。
「どうも、何か特筆すべきことは?」
「特に何もございません」
「そうか」
部屋にはベットメイキングをしているメイドが一人。ルーク様はいない。
「めんどくせぇ……」
メイドがいることも忘れて呟く。しかし丁度聞こえなかったのか、部屋にいたメイドは疑問符を浮かべている。何か言うのも取り繕うようで不自然そうだったのでそのまま部屋を出る。
歩き方さえ忘れてしまっていたルーク様だが、つい最近覚束無い足取りからしっかりしたものとなった。それを見た使用人のガイが少し涙ぐんでいたのは記憶に新しい。徒歩の訓練は殆ど彼が受け持っていたのだから当然といえば当然だ。
何が言いたいかというと、自由に歩けるようになったルーク様が目を離した瞬間何処かに行ってしまうという事だ。ガイのルーク様を呼ぶ声がそれを証明している。
ここ三日間ほどファブレ邸に来て最初の仕事が専らルーク様の捜索である。
暫く邸内を捜索すると、見つけた。今日は部屋の窓のすぐ下にいた。蹲っていたので腹でも痛いのだろうかと思い足早に近付くと、何て事はない、蟻の行列に見入っていた。
「う?」
俺に気付いたルーク様が顔を上げる。俺を見た瞬間、見知った顔だからかルーク様は顔を綻ばせて両手をこちらに向けてくる。
連れてけと?
出そうになった溜息を抑え、ルーク様の脇の下へ手を入れ抱き上げる。それだけでルーク様はきゃっきゃと喜ぶ。高い所が好きらしい。
「参りましょうルーク様、ガイが探しております。広場に出たらご自分の足でお歩き下さいね」
分かっていないであろう言葉であるが、言わないよりはマシだろう。そう言って俺はそのまま歩き出す。
そのあと、ルーク様を探し疲れたガイと合流し、ルーク様の日常生活の訓練を後ろから見守る。これが俺の最近の生活だ。
こんな毎日だからか、今ではメイド達から俺はルーク様の背後霊だとか言われているらしい。失礼なものである。
のちに知った事だが、その頃背後霊の他に、弟を探し出す兄のようだとも言われていたらしい。何とも歳の離れた兄弟だこった。
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