09
-----------------------
次の日の朝、ルークの「戦う」という決心を聞き入れた一行はセントビナーへ向かった。
はぐれた仲間と落ち合う場所がそこなのだ。セントビナーに入る際少々手間取りはしたが、運良く通りかかったローズ夫人のお陰で入口にいた神託の盾騎士団に気付かれずに済んだ。
セントビナーでは、エドガーは何をするでもなくただ目の前でなされる様を見ていた。ジェイドとマルクト軍基地の者達の会話も、アニスという導師守護役の少女からの手紙にも、大した反応は見せず。
それを見て違和感を覚えたルークが、軍基地を出た後宿屋で落ち着いてからエドガーに尋ねた。
「エド、なんかつまんなそう」
言われた張本人であるエドガーはルークにそう言われるとは思わなかったらしく、小さくではあるが珍しく目を見開いた。
そして少し考える素振りを見せてからゆっくり口を開いた。
「……そうかもな」
本人も気づいていなかったらしい。使用人の仕事があるガイよりも毎日のように過ごしていたルークだからこそ気づけたエドガーの変化だ。他の者が気づいている筈もない。
その他の者達は旅の物資調達の為に不在。唯一一緒に留守番をしていたイオンは、疲れが溜まっているらしく眠っている。
「なんで?」
「さあ、俺もお前に言われて気づいたからよく分からん」
本当に分からないのか、それともはぐらかしているのか。見た目からはいつもの通り面倒臭がっているようにも見える。
「ただ、強いて言えばつまらないと言うより……」
何かを言いかけたエドガーであったが不意に口を閉じた。一向に続けようとしないエドガーに話を促そうと声をかけようとルークが口を開くと、その瞬間部屋にノックの音が響いた。
「入れ」
屋敷での癖が外にいても出てしまうのは習慣の賜物だろう。ノックをしたティアは半眼で部屋の扉を開けた。
「ルーク、他人がノックをしたら『入れ』じゃなくて普通は『どうぞ』よ」
「なんで? 屋敷じゃそんな事言わねーよ」
「ここは貴方の屋敷でもなければキムラスカでもないの。マルクト人の反感を買ってエンゲーブの時みたいにならないよう心掛けて」
「うるせーなー。で? 用はなんだよ」
エドガーとの会話を打ち切られてイライラしたのか、ルークは不機嫌な表情を隠さなかった。それを見たティアが尚も注意をしようと「あのねぇ」と言葉を続ける。
しかしその言葉は第三者によって打ち切られた。ティアの後ろにいたジェイドだ。
「二人とも仲が本当によろしいんですね」
「違います」「どこを見てそうなる!」
ほぼ同時に発せられた反論にも、ジェイドは飄々としている。その様子を後ろから見ていたガイが「ジェイドってホント人を食ったような性格だよな……」と呟いていた。ジェイドの態度にルークを怒る気力を削がれたティアは、ルーク達に向かって再度口を開いた。
「良い情報と悪い情報よ。街の入り口にいた神託の盾がいなくなったの。でも六神将のラルゴが生きていたわ」
「え……! ラルゴってタルタロスでジェイドが刺した……?」
ルークは心なしかほっとしたような表情をさせる。それに気づかないティアはまだ苦い顔をしている。
その後一行は、導師イオンの体調も考慮に入れて一日セントビナーで休む事にした。明日はいよいよ国境を越える事になる。
「強いて言えばつまらないと言うより、少し不機嫌なのかもな」
[
←] | [
→]