庇護対象
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開発された自我。
その俺の器になった者は、小さな子供だった。
俺を恐怖の対象と見ているのか、それとも何か違う考えがあるのか分からなかったが、その子供の魂は俺の魂に飲まれるのに抗わなかった。
他人から見たら、俺がこの子供の魂を押さえ付けているように見えるだろう。
でも、違う。
俺はこの器に居心地の良さを感じた。
恐怖で震えるこの小さな宿主を守ってみようと、最初から何処かで思っていたような気がする。
「ラグナロク……」
小さな呟き。
宿主の体内を巡る俺は、一呼吸ドクンと脈打つ事でそれに答えた。
「こ、怖いよ……暗闇との、せ、接し方が、分かんない、よ……」
光の無い、視界の働かない部屋。
最近この部屋によく入る。
それはいつも俺の宿主、クロナが母親のメデューサを怒らせた時。
宿主と言っても、このままの状態で対話ができる訳ではない。
あまり痛みを感じないよう、クロナの背中の皮膚を破って這い出た。
滴る黒血を固めて止血もする。
「ただ暗いだけじゃねーか、何が怖いんだ?」
声をかけると、今まで堪えていたであろう涙が嗚咽と共に流れた。
「な、何、も、見えないっ、し……僕が、どこっにっ、いるのか、分かん、なく、なるっ……」
「あのなぁ……」
「それ、にっ……ラグナロク、が、このくらっ、暗闇、に、溶けてっ……いな…く…なるっ、じゃ、て……」
「……」
クロナは弱い。
身体的ではなく精神的に。
強くなる道を故意に絶たれているのだから当然だ。
その弱さに漬け込む自分も、大概卑怯な奴だが。
黒血でできた手のひらで、クロナの目を覆った。
「俺もお前もここにいる」
「っ、うん」
「周りが暗くて見えないのは俺がお前に目隠ししてるからだ」
「うん、」
「怖くない。俺がいる。俺の姿だってこの闇と同じ漆黒だ。この空間に俺が溶けるんじゃねぇ。この暗闇全てが俺だ」
「うんっ……!」
小さな手が俺の手に重ねられた。
暖かい手だった。
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