古書店の店主
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ただの本屋のしがない店長。
店長と言っても店員が一人だからと言う理由。
小さな小さな本屋の住人。
そんななんの変哲もない極有り触れた人生を送る、少女とも女性とも取れる人物。
今日も今日とて滅多に来ない客を待ちながらページを捲る。
― カラン カラン ―
久方ぶりに響いたドアの開く音。
その音が聞こえても彼女の様子が変わる事は無い。
もし商品である本の一冊が盗られたりしても気付きそうにない。
カサリ、とまたページを捲る。
「ごきげんよう、店長」
「ごきげんよう」
気が付いていなかった訳では無いらしい。
挨拶にはきちんと答える彼女に、顔見知りらしい男性客はクスクスと笑う。
「譲って欲しい本がある」
「見返りを」
「勿論。世界の呪印が封されている書物は如何かな?」
「物騒ね」
「貴女には効かないだろう?」
「私に効かないのではない。ここにいれば効かないだけ」
「同じことだ」
「そう? そうね、貴方にとってはどちらも一緒か」
パタン、と読んでいた本を閉じる。
ゆっくりと顔を上げる彼女を、いまだニコニコと見下ろす男。
「相も変わらず身勝手な男ね、 クロロさん 」
彼の名前は、クロロ=ルシルフル。
世を揺るがすA級賞金首である。
「そういう貴女こそどうしようも無い人だ、 ナマエ 」
この本屋の店長、彼女の名前はナマエ。
ナマエはほんの少し目を細めたと思ったらきつい声色で口を開く。
「私は以前確かに名乗ったけれど、呼んで良いとは言ってないわ」
「これは失敬」
クロロは未だ、嘘くさい笑顔を張り付けたまま。
「貴方のお目当ては振り返って左の棚。見返りをお忘れなきように」
「心得ました」
満足そうにするクロロは、もう用が無いとばかりに店を出る。
店主のナマエと呼ばれた少女とも女性とも取れる人物は、今日も変わらず本のページを捲る。
求める本が見つからなければここへ来るが良い。
貴殿の所望品は必ず見つかる。
但し、
見返りも同じく書物。
同等の価値が無ければ店主は決して許さない。
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