六年い組
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早朝から薬草採りに行こうとする六年は組の善法寺伊作、食満留三郎、そして尾張幸三郎。しかし空が白み始めた頃に私服で集合したにもかかわらず、日が出て暫くしても三人は出発できずにいた。原因は目の前で乱闘を始めた食満と六年い組の潮江文次郎である。潮江の方は忍び装束を着ている事からまた徹夜でもしていたのだろう。この二人がばったり会ってしまったのが運の尽き。小さな小言から始まり売り言葉に買い言葉、今はお互いの得意武器を取り出してまでの喧嘩になってしまっている。
こうなると止める事は容易くない。尾張と善法寺は顔を見合わせて苦笑を漏らした。
「全然変わってないのだな」
「幸が任務に行ってからもずっとこんな調子さ。私たちも一応任務とかで顔を合わせる機会は少なくなったけれど、それでも会えば乱闘騒ぎになる」
「あの二人らしいっちゃらしいが、壊れた物を直すのは用具委員会だし、その予算は会計委員会が捻出するという事を分かってやっているのかね」
「分かる筈もなかろうよ。あ奴らはただのバカ共だからな」
六年は組幸運不運コンビの会話に入って来たのは、潮江文次郎と同じく六年い組の立花仙蔵だ。日の出の直後ではあるが、既にその身は忍び装束をまとっている。
「久方ぶりだな幸三郎」
「ああ久しぶり、そしておはよう。これから任務か仙蔵?」
「そんな所だ。任務前の景気付けに文次郎を沈めていこうかと騒ぎを見に来たのだ」
仙蔵は懐から焙烙火矢を取り出し、導火線の根元を確認している。口元は心なしか笑みを浮かべている。
「あまり派手にやり過ぎないでくれよ、留さんもいるんだから」
呆れたように言う伊作に、仙蔵はもう一方の手を袖の中に入れた。
「善処しよう、無理だとは思うが」
そんな事を言いながらにやりと笑う仙蔵。右手には焙烙火矢、左手には火種が握られている。
「……伊作、看病頑張って」
「……うん」
来たる看病の為に伊作は遠い目をした。早朝に行きたかった薬草採りは昼過ぎになりそうである。
所変わってここは保健室。先程まで争っていた文次郎と留三郎が切り傷擦り傷火傷をこさえて座っている。
「鉢合わせするたびに本気の戦闘を始めるの止めてくれないかい二人とも。包帯や軟膏だって有限の物資なんだから」
そう言いながらも丁寧に治療を行っていく伊作。幸三郎はその手伝いをしている。
「先に仕掛けてきたのは留三郎だ」
「てめ、嫌味吹っかけてきたのは文次郎の方だろうが!」
「二人とも、その喧嘩続けるならここから追い出すよ」
「「……」」
「次の予算会議は楽しみだね。なんたって予算を管理する者が進んで保健委員会の物資を消費するんだから」
何も言えない文次郎である。
「留も大概にしとけ。今日の薬草採りだって大分時刻が遅れてしまった。蕎麦はお前の驕りって事で文句ないな?」
何も言えない留三郎である。
手当を終えてさあ薬草採りへ、と言う事になった時に、幸三郎が文次郎に呼び止められた。
「帰ってきたら時間あるか?」
「まあ、無い事も無い」
「今夜手合せ願おう」
「小平太の次はお前か? 分かったよ、夕飯の前には帰ると思うからその頃に」
「ああ、三人とも気を付けて行って来いよ」
そんなこんなで、幸三郎は同級生並びに同学年といい関係性を保ち続けている。それは単に実力だけではない、彼の人情や義理堅い一面も起因している。義理人情のある忍と言いうのも変な物だが。
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