六年ろ組
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早めの夕食を取るために尾張幸三郎は、善法寺伊作と食満留三郎と一緒に食堂へ向かう。幸三郎は「久し振りにおばちゃんの御飯が食べれる!」と言って嬉しそうだ。
三人が食堂に着くと、そこには既に先客がいた。
「幸三郎! 帰っているというのは本当だったんだな!」
食事半ばという様子の六年ろ組七松小平太と中在家長次。中在家長次はそのまま腰を落ち着かせたままだが、七松小平太は席から立ち上がって久方ぶりの尾張幸三郎を迎えた。
「私が帰っているのがそんなに意外か?」
「いや、よくぞ帰ってきた! この前の鍛練の続きを……」
今にも裏山へ走り出しそうな勢いの七松小平太を、同じ組の中在家長次が片手を上げて制した。
「なんだ長次、別に良いじゃないか。久しぶりなんだから」
もそもそ、と中在家長次が何かを言う。それを聞いて七松小平太が少したじろぐ。
それを見て六はの三人がクスクスと笑う。
「何を言われたのか想像が容易いね」
「ああ、きっと『お残しは……』とでも言ったんだろうな」
「私たちも早く夕飯を頂こう」
伊作、留三郎、幸三郎の順番になされた会話。留三郎が言った予想は一字一句違わずに合っていたのは言うまでもない。
食堂のおばちゃんに声をかけると、既に気づいていた彼女はニコニコと笑ってお盆を三膳順番に持ってきた。
「お帰りなさい幸三郎君。煮物、おまけしといたからよく噛んで食べなさい」
「よっしゃ! おばちゃんありがとう!」
「分かっているとは思うけど、お残しは……」
「「「許しまへんでぇ!」」」
おばちゃんの台詞を継いで言うと、おばちゃんは更に笑みを深めて「そう言う事」と言って調理場の奥へ戻った。
六年間忍術学園で聞き慣れてきた言葉も、幸三郎にとっては久し振りの物だ。嬉しくて仕方ないと言うように笑う。
膳を持って振り返ると、待ってましたと言わんばかりに七松小平太が手招きをしていた。断る理由も無いので誘われるままに三人ともろ組と同じ食卓で席に着いた。
「食後に私と裏々山に行かないか幸三郎」
席に着くなりそう言う小平太に、幸三郎は「ニヒヒ」と笑いながら箸を取る。
「良いぞ。私も皆に久方ぶりに会えて嬉しいからな。ただ明日は早いから無理はさせてくれるなよ」
「なんだ、今日帰って来たのにもう任務か?」
どんぐり目を更に見開いて言う小平太に、幸三郎はまた笑みを深める。
「いや、暫くは学園に留まる。明日は伊作と留と薬草採取だ」
「そうか! ではこれからはいつでもお前と鍛錬ができるな!」
「おいこら小平太、お前私の話を聞いていなかったのか? 明日はダメだからな」
「細かい事は気にするな!」
「この野郎、罰としてひじき寄越さんか」
「イヤだ!」
驚いた様子は演技だったのかと思うくらいの手の返し様に些か怒りを覚える幸三郎だが、ここで一方的に叱っては学級委員長委員会委員長の名が廃るという物。拳を握り耐えて見せた。と言っても本当に怒っている訳では無いが。
そんな幸三郎の様子を知ってか知らずか、他のは組、つまり善法寺伊作と食満留三郎はのほほんと中在家長次と会話をしていた。主に伊作が興味のある本を仕入れていないか長次に聞いている。
「最近キノコ類に嵌ってて。毒キノコの資料とか無いかな?」
「……伊作が既に借りた物なら」
「あーあれが一番詳しい奴かぁ。毒キノコの資料と言っても、食用キノコとの区別だろう? それはもうできるからあれはあまり参考にならなかったんだよね。もっとこう、効能とか書かれているやつ」
「……一つ思い当たる」
「本当かい? 今度それ取っといておくれよ」
「分かった」
「今度は誰に試そうっていうんだ伊作。頼むから用具委員は狙ってくれるなよ」
「あははーまっさかー誰かに試すなんてそーんな事しないよー」
「悉く語尾が伸びてるぞ」
少々不穏な会話ではあるが、忍たま六年生にもなればこんなのは日常茶飯事。
食事の後、約束通り幸三郎と小平太は裏々山まで走り森の中での組手をした。勿論調子に乗った二人を止めるべく、長次と留三郎が迎えに行き、傷だらけの二人を保健室で待ち構えていた伊作が治療。治療と言う名の説教があった事は言うまでもない。下級生が寝静まっているので、静かに、見た目は穏やかに、無言の圧力をかけられて二人が半泣きに陥りそうになったのはまた別の話。
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