六年は組
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「まったく! 帰ってきて早々何やってるんだい幸! 後輩に怪我までさせて」
鉢屋三郎の怪我を治療しながら憤慨しているのは、尾張幸三郎と同級生の善法寺伊作。保健委員会委員長だ。言わずもがな、ここは保健室である。対して話題の中心の幸三郎は眉をハの字にして苦笑してる。
「いやぁ久しぶりで嬉しくってさ、つい」
しかし苦笑の中にもニヤニヤとした意地の悪さが垣間見える。実に楽しそうである。
「つい、じゃない! もう……すまないね鉢屋、幸がちょっかい出して」
手早く湿布を貼り、次に包帯を取り出しながら伊作は鉢屋三郎に声をかける。三郎は「伊作先輩が謝ることないですよ」と言いながらも不服そうだ。自分は怪我を負ったのに幸三郎が無傷なのが不満なのだろう。
「ちょ、先に仕掛けてきたのは鉢屋だぞ!?」
「幸が挑発したのは見なくても分かる」
「伊作ひでぇ」
「事実だろう?」
「えー? うん、まあ」
「ほら見ろ」
伊作の様子を見るに、幸三郎のあのような行動はよくあることらしい。あのようなとは、主に下級生をおちょくる行為だ。
「鉢屋だって乗り気だったんだからお相子だろ普通」
ケラケラと笑いながらそう言う幸三郎に、伊作が一睨み。幸三郎は素直に降参の意思表示として両手を挙げた。
「伊作先輩、ホントに良いですよ。私の力不足の結果なんです」
「……まあ、鉢屋が良いって言うならもう何も言わないけれど」
丁度治療も終わった所で「はい、終わり」と伊作が言った。それに伴い三郎が礼を言ってから部屋を出た。
入れ違いに入ってきたのは、善法寺伊作や尾張幸三郎と同じくは組の食満留三郎だ。
「また鉢屋と?」
「そう! 留さんも何か言ってくれよ。幸ちゃん相っ変わらず下級生を弄り倒すんだから!」
「幸はホントにそういう所変わらないよなぁ」
「褒めてくれて良いよ」
「アホか」
留三郎は幸三郎の頭を軽く小突いた。それに対して幸三郎はまたケラケラと笑い、伊作はため息を吐く。
「留さんはどうしたんだい? 怪我でもした?」
伊作は何を言っても無駄と判断したらしい。保健室に来た留三郎に要件を聞いた。
「いや、幸が帰ってきたと聞いてな。ここにいるだろうと見当をつけてきた」
「なるほど」
何てことない会話だったのに、伊作がにやりと笑った。それを見て留三郎もにやりとほくそ笑む。そして伊作と留三郎が目で合図をし合い、同時に幸三郎を見た。
「「おかえり、幸(ちゃん)」」
完全に意表を突かれた幸三郎。暫く呆けたあと、照れたように後頭部をかく。
「ただいま、留、伊作」
六年間学級委員長をやって来ただけはある。尾張幸三郎に対する六年は組の信頼は絶大だ。
だからこそ、幸三郎は任務から必ず帰ってくる、と言って過言ではない。彼は期待を決して裏切らない。帰らなければ、同級生たちが泣くのをこらえて苦しむ気がするから。六年生と言えどやはりたった十五才の少年。幸三郎も親しい人の悲しい顔には滅法弱い。
「暫くは任務貰わないで学園にいるつもり―」
「本当!? じゃあ今度一緒に薬草取りに行こう! この前の埋め合わせで」
「なら俺も行く。薬草採りが終わったら蕎麦でも食べに行こうぜ」
「良いねー! 美味しい店でも見つけたのか、留?」
「用具委員会の一年でな、そういうのに詳しい奴がいるんだ。この前美味い店教えて貰った」
「やりぃ!」
だからこそ、楽しく、皆が笑えるように、尾張幸三郎はこれからも学級委員長を続けていくのだ。
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