学級委員長委員会委員長

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「あの……尾浜先輩」

「んー?」

「止めなくて良いんですか?」

「えーあれを止めに行くのは命知らずのする事だよ庄ちゃん」

長屋の外で繰り広げられる鉢屋三郎と尾張幸三郎の攻防戦。五年い組の尾浜勘衛門はそれを、饅頭をくわえながら観戦している。その隣では、顔を青くしている一年い組の今福彦四郎と一年は組の黒木庄左ヱ門。彼らが顔色悪くしている理由は1つ。『天才』『変装の名人』『千の顔を持つ』などと言われ、教師陣からも一目置かれている存在の、あの鉢屋三郎が。

「鉢屋先輩が、苦戦してるなんて……」

今福彦四郎の言い分に無理はない。
鉢屋三郎いつもは飄々としていて、隙あらば悪戯をしている様なふざけた男だが、実力は確かである。日頃その実力のベクトルがおかしな方向に行っているというだけだ。彼の後輩もその事に関して理解していた。しかし今はどうだろう。
鉢屋三郎のいつもの笑みは無く、真剣な面持ちで尾張幸三郎と対峙している。対峙しているだけでは飽き足らず、押され気味の様子なのだ。普段の鉢屋を見ている分、後輩たちの驚きは思っているよりも大きい。

「まあね、あれでも俺らの一個上だし。六年生の中じゃ一番実力あるんじゃない?」

「ええ!? あの六年生の中で一番ですか!?」

「うん、幸さん単独任務多いし。今回も長期の任務だったらしいから。新学期前の休みからずっと今まで」

「すごい……」

三郎の縹刀を難なく避ける幸三郎。その顔は本当に楽しそうだ。三郎の方はどちらかと言うと悔しそうな表情である。

「まあ、そういう人だから学級委員長委員会には滅多に来ないんだよね。ホント、一発くらい縹刀当たれば良いのに

「「え……」」

尾浜勘衛門のただならぬ発言に一年二人が振り返る。振り返った瞬間また元のように幸三郎と三郎の戦闘を見始めた。というか目線と顔をそらした。饅頭をくわえたまま観戦をしていた勘衛門の目が完全に据わっていたのだ。まだ十分な実戦経験が無い一年生にそれの直視は難しいだろう。

「いい加減に当たってくれませんか、幸さん」

「お前その縹刀に神経系の麻痺剤塗ってるだろ。誰が触れるか、全部避けてやんよ」

「ちっ」

「え、舌打ち!?」

非難するように幸三郎は言葉を発するが、表情は打って変わって楽しそうである。どうにもその笑顔に調子を狂わされる三郎からは歯軋りさえ聞こえて来そうである。

その感情の動きが身のこなしに影響するのはほんの一瞬である。本来ならばその一瞬の鈍りを見定める事すら難しい。しかし相手は腐っても六年生で一位二位を争う実力者。見逃すはずが無いし、そこを穿つ実力がある。それならば選択肢は一つだ。

「っ!」

「ははっ、鉢屋もまだまだだな」

あっと言う間に幸三郎が三郎の腕を捻り上げ地面に押し付けて動きを封じた。動けないでいる三郎は、その代わりと言わんばかりに幸三郎を睨みつけている。

「おーおー殺気だけはいっちょ前だなおい。でもまだ鉢屋には勝たせてやれないな」

「勝たせてもらう気は更々ありませんよ。実力で勝ちますから」

「楽しみだねそりゃ。俺が卒業する前に頼むよ」

倒れたままの三郎の頭をぽんぽんと叩き幸三郎は彼の上から退く。捻り上げられた手首をさすりながら立ち上がる三郎の傍らで「土産で美味い饅頭持ってきたんだ。後で皆で食べろよ」と幸三郎が勘衛門に包みを投げよこしながら言う。

「幸さんは食べないんですか?」

「俺は帰り道でつまんできたからな。鉢屋が戻ってきたら食べるんだぞ」

「はーい」

そうして幸三郎は三郎の腕を取ってある場所へ歩き出した。三郎はと言えば「はぁ!? なんですか幸さん! 放してくださいよ!」と抵抗しているが、幸三郎が有無を言わせず引っ張る。向かう先は、怪我人が集う保健室だ。


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