巡り合わせ

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どこまでも広大な見渡す限りの緑地。
割と大人しい魔物が縦横し、ここらにあるものといえば小さな村に続く小道と案内標識くらいか。
そう、ここはマルクト領ルグニカ平野。

そんな平野のど真ん中で先ほどから無言の二人組がいた。
一人は滅多に見ることのないワインレッドの瞳に光を宿し、黒を基調としたフリルワンピースを着た少女。
そしてもう一人はこれまた珍しい琥珀色の瞳を濁らせ、その長身を武装で固めている男。


「(何だ、このロリ。)」
「(何だろこのオッサン。)」

「(すげぇ面倒な気配がするな…)」
「(すっごい面白そうな気配がする!)」


互いに避けたい事と求めている事には敏感であるらしく、その勘は見事に的中している。
たった今、面倒事を運んで来る暴君ロリに目をつけられた何より面倒事の嫌いなオッサンの図が出来上がった。



□□□



面倒事は嫌いといえ、魔物の多いこの場所に武器も持たずにいる少女を置き去りにする程腐ってはいない。
目の前の少女を迷子と仮定して男は声を発した。


「迷子か?名前と家の場所は?」

「……頭が高い。」

「あ゙ん?」

「良いからしゃがみなさいって。」


少女の口から出た高慢な台詞に男は思わず柄の悪い返事をしてしまったが仕方ないだろう。
しかし少女と自分の身長差は優に30cm近くはある。もしかしたら喋るのに首が痛かったのかもしれない、そう思い直して男は膝を折った。


「…それで名前と家は?」

「人に名前聞く時は先に自分からでしょ〜?おにーさんが名乗ったら教えてあげる。」

「(このクソガキ…)エドガーだ。傭兵をしてる。」

「エドガーね。私はセフィリア。天使でっす!」

「(…頭がアレのようだな。)」


バチコーン☆と目元でピース構えながら自己紹介をする少女、基セフィリアにエドガーは軽い目眩を起こした。
ただの迷子じゃない、究極に面倒な迷子に声をかけてしまったようだ。そう後悔した。


「…セフィリアな。それでセフィリア、家はどこだ?連れて行ってやる。」

「家は天界の大きな宮殿。今は一人旅行中だから連れて行ってもらわなくて大丈夫〜」

「一人?親は?」


家のくだりをスルーしたエドガーが食いついたのは『一人旅行』という言葉。
こんな頭のヤバいガキを一人でふらふらさせてるんじゃない、と言うところか。
現在仕えている家の坊ちゃんに劣らず傍若無人なセフィリアを自由にさせている親の顔を見たいという気持ちも込められた質問なのかもしれない。


「え〜だって私もう21歳だし。一人旅行くらいするでしょ?」

「…は?」


21歳……ガイと同い年…ロリータ…成人女性……フリフリのワンピース………


「(これが合法ロリか…!)」

「何考えてるか知らないけど、別に私迷子じゃないし、困ってる訳じゃないんだ〜…それよりぃ…」

「なんだ。」

「おにーさん、これから何しに行くのかな?さっき傭兵って言ってたし、ご主人様を狙うやつらでもボコりに行くの?」

「さぁな。仕事内容を口にはできない。」

「ふ〜ん?でも今からお仕事なんだ?」

「……」

「で、早急に仕上げなきゃいけない仕事なら私と悠長にお喋りしてる訳ないし、そうだなぁ…ちょっと倒し辛くて遭遇率の低い魔物の討伐とかが妥当かな〜?」

「何でそう思う?」

「だって傭兵ってさぁ、仕事選ぶくらいだし意外とお金持ってるんだよねぇ。だから普通野宿とかしないから荷物は宿に置いてるものでしょ?でもエドガーは持ち歩いてるし。それっていつ魔物に会えるかわかんないから野宿しなきゃダメって事じゃないの?」

「仕事先への移動中って可能性は?」

「だから傭兵はお金持ってるから馬車使うし、歩いて移動なんてしないのー」

「(ただのぶっ飛びガールかと思ったがまあまあ頭は良いらしいな。)」


確かにセフィリアの推理は正解だった。
エドガーの今回の任務はソードダンサーやヘビーモス、サンドワームと並ぶ凶悪と名高い魔物の討伐だ。


「…仮にそうだとして、お前は何がしたいんだ?俺の仕事の邪魔か?」

「そーだねぇ、仮にそうだとするなら私も一緒に魔物退治に行きたいかな!」

「ああ、仮にそうだとしてもお前をそこに連れて行く事はできない。」

「え〜?何で?」

「武器も持たない一般人を危険に遭わせる訳にはいかないだろ。」

「武器ならあるよ?」


セフィリアの手元に突如現れた白銀に輝く大鎌を見てエドガーが目を見開く。
マルクト軍に所属する皇帝の懐刀が身につけている技、コンタミネーション現象によく似たその光景を目の当たりにして驚かない者はいないだろう。


「今の、どうやった?」

「どうもこうも天使なんだからこれくらい朝飯前だよ。」

「これは恐れ入ったな。」


それは素直な感想だった。
あの技術はちょっと譜術が得意だからといって出来るものではない。
つまるところこの少女は屈指の実力者。そうエドガーは判断した。


「えへ。ねぇどうかな?私、結構強いし連れていってみない?」

「残念だが本当に仕事じゃないんだ。旅行の続きでもしてろ。」

「誤魔化したってダメ〜!それに、本当に仕事じゃないって言うなら着いていっても良いでしょ?旅行の寄り道として。」

「……」

「ん?」

「はぁ…勝手にしろ。」

「んふふ、勝手にする〜」


仕事に他人を介入させてしまうなど、真摯な仕事人にあるまじき失態。
そう内心嘆きながら鼻歌を奏でるセフィリアを横目に再びため息をついた。



□□□



隣でひたすらマシンガントークを繰り広げるセフィリアに適当な相槌を打ちつつ、苛立ちを覚えながら歩く事数十分。あまり人の立ち入らない森へ到着した。
まさしく獣道というような未舗装の道に足を踏み入れると魔物の鳴き声が響く。


「ここに探してる魔物がいるの?」

「多分な。」

「それってどんなの?」

「突然変異の魔物だ。二つの獅子の頭と山羊の胴体、三本の毒蛇の尻尾を持ってる。大型の。」

「あーキメラってやつね。」

「そうだな。」


ふーん。と緩い相槌を打って欠伸をひとつ。
その時、魔物の鳴き声が止まった。


「あれ?なかなか会えないんじゃなかったの?」

「ああ。ま、仕事が早く終わって助かる。」


木々を薙ぎ倒しながら近づいて来る音。
エドガーは愛銃を取り出し鋭い目つきでそちらを睨む。
それは姿を現してすぐに炎の玉を口から吐き出してきた。その場を素早く避けるとそこら一帯の草木が燃え上がる。


「おいおい、とんだご挨拶だな。」

「も〜この服気に入ってるんだからね!燃えたらどうしてくれんのよぉ。」


普通の人間なら炎を吐けば逃げるか死ぬなりしているはずだが、余計に殺気を増されたり悪態をつかれたり、そんな未知との遭遇に魔物も焦った。
いよいよ本気で殺してやろうと長い毒蛇の尾が牙から毒を滴らせる。火傷や噛み傷などの外傷はまだしも、毒による麻痺などは厄介だ。


「獅子は火炎、蛇は毒、なら山羊は…蹴り上げかな?」

「特に気にしなくて大丈夫だろ。問題は獅子が二頭と蛇が三匹に対して俺たちは二人って事だ。」

「ん〜じゃあ私が四匹倒してあげるからエドガーはどれか一匹倒して。」

「…数は問題じゃないな。」

「んふ、強がり〜」

「強がってない。行くぞ。」


銃を構え直して駆け出したエドガーにセフィリアも大鎌を一降りして続いた。
初っ端から急所である目を狙い弾丸を撃つエドガーはなかなか容赦がない。
もちろんそれを簡単に受ける訳もなく、巨体で体当たりをしてきたりセフィリアの言う通り山羊の足で蹴り上げてきたりと息着く暇ない怒涛の攻めを見せる。


「も〜チョロチョロと鬱陶しいなぁ。…インディグネイション!」


セフィリアが秘奥義に分類される最上級譜術を詠唱なしで発動させる。
何となく嫌な予感を察知していたエドガーは事前に標的と距離を取っており、その正しい判断のおかげで頭上から落ちてくる雷を喰らうことはなかった。


「お前…俺まで丸焼きにする気か!?」

「エドガーなら避けるかなって思ったからぁ…てへぺろ☆」

「ふざけんな。」

「いった〜い!か弱い女の子に何するのよぉ!」


セフィリアの頭に手刀を落とし文句を言いながら暴れる彼女は無視して魔物を見ると、先程の雷によって尻尾の三匹は見事に焼き上がっていた。
かろうじて動いている獅子二頭は目を見開くと全身にビリビリと響く咆哮をあげた。


「このまま全部お前に取られちゃ俺の沽券に関わるからな…」


再度銃を握り直して獲物に向かうと、当初と同じく四つの目を狙って発砲した。
本来、狙撃の腕は高い為それらは見事に全てが命中する。
急所をやられ、視力を奪われた魔物は大きく身体をのけ反らせながら無差別に火炎弾を放った。


「わ〜大惨事。」

「言ってる場合か。」

「じゃあ早く倒さなきゃね。セフィリアちゃん行っきま〜す!」


手には身長を優に越す大鎌を握り、背景には灼熱の炎。
にんまりと笑い佇むその姿はまるで…


「魔王だな。」


恐らく誰が見てもそう言うだろう。
死に神よろしく鎌を振りかぶると獅子の首に向けて一直線だ。











スプラッシュを連発して森の全焼を阻止したあとは戦利品として毒蛇の皮や獅子の牙を頂戴した。これはケセドニアの交易店に持っていけば良い値で売れる。
そして討伐証拠として蛇の毒牙も。毒牙を持つ魔物など多くいるが、こんな巨大なものはそうそうない。充分な証拠になりだろう。


「何だかんだで殆どお前が倒したな。」

「うん!楽しかった〜」

「…行くぞ。セフィリアにも報酬渡さねぇと。」

「え、別にいらないよ?」

「貰っとけ。じゃなきゃ俺の気が収まらん。」


めんどくさがりではあるが、真面目で誠実な面も持ち合わせているが故そういったところはきちんとしていたい。反してセフィリアは楽しめたらそれでいい為気にしない。実に正反対の二人である。


「(本当にいらないんだけどなぁ)…じゃあ提案!」

「は?」

「また一緒に遊ぼう?その約束が報酬!」

「遊んでたつもりはないんだが。」

「良いから。ほら約束!」

「…あー、わかった。約束する。」


小指を出してきたセフィリアにらしくもなく自分の指を絡める。
お決まりの台詞は『指折り、拳百、嘘ついたら針一本だけ飲〜ます!』というやけにリアリティ溢れるものだったが、取りあえず約束は済ませた。


「じゃあまたね!」

「ん。じゃあな。」


再開を約束する言葉で別れた彼らが意外と早くに鉢合わせる事になるのは誰も知らない。





(何でタルタロスにいるんだよ。)

(あ、エドガー。数週間ぶり〜)

(はぁ…世界は狭いもんだな。)

(そうだね〜。あ!遊ぶ約束、覚えてる?)

(…ああ。)

(長いお遊びになりそうだね!)



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樹里亜様に書いて頂いた夢主コラボです!
セフィリアちゃんに振り回されるエドガー君……良い!さながら幼女に振り回されるおっさんですね!事情を知らない人が見たら警察呼ばれて更に不憫という。
樹里亜さん素敵な贈り物をありがとうございます!


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