06
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家に帰る道中、私とシンクは一言も喋らなかった。怒っているのだろうか、呆れているのだろうか。サングラスで隠された目元は、何も読み取らせてくれなかった。
家の中へ入って玄関を閉める。途端にシンクが大きな溜息をついた。
「幸せが逃げません?」
「誰のせいだ誰の」
「ごめんって。アルマンダイン伯に頼まれてね、断るに断れなかったんだ」
「ああ、あの禿」
いやいや、気にしているかもしれない事をそんなハッキリ言わなくても。
アンタも大概失礼だよ。
「まあ冗談はさておき」
会話しながらも装備の補充を進めていた私は、家に入ってから初めてフードと帽子を取った。振り返ればシンクもフードとサングラスを外していた。
それから気だるげに椅子に座り、肘をついて窓の外を眺め始める。
「……もうそんな時期なのか」
「ええ。どうでした? 二度目の生を得てからの“初めまして”は」
「最悪」
「でしょうね」
ポットに入っていた温めの水を二人分出して、一方のコップをシンクに渡す。シンクはコップを受けとるも、透明な水を眺めるだけで飲もうとはしなかった。
「別にアイツらみたいに世界を救いたいとか微塵も思ってない」
「ええ、私も」
「かといって前回同様、預言を馬鹿みたいに憎むほど僕は阿呆じゃない」
「面倒だからね、何かを憎むなんて」
「でも」
「でも?」
「今の生活を壊されるのは癪に触る」
「おや」
「……何」
「いいえ、いい傾向だと思って」
きっと私はニヤニヤとした笑みを浮かべているのだろう。シンクが嫌そうに顔を反らして水を飲んだ。
「そうそう、今回は今日中に帰れそうにない」
「ぶっ!?」
咳き込んだ。
「今から私が乗る船が本日の最終便らしくて」
にこりと微笑んでやればシンクは目を真ん丸に見開いて口をパクパクと開閉する。まるで魚みたいだ。
しかし、最後には頭を抱えながらまた大きな溜息をついた。
「……フローリアンには自分で言ってよね」
「はいはい」
私は適当に返事をし、コップに入っていた水を飲んで流し台に置いた。それから、先ほど準備をした装備を装着していき、小さなカバンを持って玄関に立った。
「セト」
「ん?」
「導師はキムラスカに着いた次の日に六神将に誘拐される。パッセージリングに続く扉を開けさせる為だ」
「止めるべきかな?」
「別に。計画は始まってる筈だから大地崩落は免れない」
「では様子見という事で」
帽子を被ってフードに手をかけながらこれからの行動を悩む。するとすぐ隣にシンクが寄ってきた。サングラスとフードで顔を隠して。
「……港まで送る」
「何か気になることでも?」
「少し、ね」
扉を開けて外へ出る。
既に傾いている日の光は赤く燃えているようだった。
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