05
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ルークと話した後はなるべく人目を避けて船旅を堪能した。
つまりは高い所にずっといた。高所に中々目がいかないのは経験から知っている。要するに高みの見物。
そうこうする内にケセドニアに船が着いた。
ケセドニアに降りて気づいたことがある。ルークはヴァンになついているらしい。別行動をすると分かった途端に駄々を捏ねた。
「ではこれで失礼する。護送屋、くれぐれも彼らを無事にバチカルへ」
急に話しかけられた。にこりと微笑んでおいた。
その笑みをどう取ったかは知らないが、彼は一度目を伏せて背を向けた。
「では我々は領事館へ参りましょう。申し訳ありませんが護送屋殿は席を外して頂けますか?」
言外に強い拒絶を伴った刺々しい言い方である。言わずもがな発言者はジェイド・カーティス、マルクトの懐刀だ。
「ええ、でしたら一度自宅へ帰って諸々の準備をしてきます。お互い用事が済んだらキムラスカ側の港で、という事でよろしいですか?」
「……それが良いでしょう」
「では皆様、また後程」
ふはは、刺々しい言葉ならシンクで慣れていますから痛くも痒くも無いですよ。
「あ、セトだ」
ふと聞こえた子供の声に、懐刀から視線を外す。
「ホントだ!」
「セトだー!」
「セトー!」
一人が口を開いたのを皮切りに、街の子ども達が次々と現れては私の名前を大声で呼んだ。
「はいはい、聞こえてますからそんな大きな声で呼ばないで下さい」
子ども達の無邪気さに呆れながらも受け答える。すると子ども達の一人が私の服の裾を掴んできた。
「ねえまたフローリアンが見つからないんだよー」
「ディンの店も見たし」
「家の裏手も」
「宿屋のカウンターの中も」
「売り物の鍋の中にもいないんだよ」
なるほど、今日はかくれんぼをしているらしい。毎回毎回最後まで見つからないのがフローリアンというのは既に恒例だ。
「酒場の裏道は見ましたか?」
左右から引っ張られるままにされていたのだが、それを言ったら動きがピタリと止まった。
「……あ」
「「あー!」」
探していなかったようだ。
「ありがとうセト!」
「どう致しまして」
蜘蛛の子を散らすように、子ども達はその場からいなくなった。
それとなく後ろからの視線を感じる。
「人気者なんだな」
振り返るとガイがニコニコしながらそう宣った。
「まあ……本当の人気者はフローリアンですよ。私はついでです」
「フローリアンって?」
ガイの言葉にクスクスと笑いながら答えたら、今度はティア・グランツが口を開いた。
「私の、兄弟です。私を含めて三人いるのですけれど、彼はいつも街の子ども達の遊び相手をしていましてね」
「ふーん、じゃあもう一人は?」
興味を示したのか、ルークも話に入ってきた。
「シンクと言います。少々意地っ張りで素直ではないのですが、兄弟の中で一番良い子ですよ」
「気色悪い事言わないでくれる?」
突然の会話乱入。
確認するまでもない、この声は。
「やあシンク。こちら側の市場にいるという事は食材の買い出し?」
私の、文字通り“片割れ”の一人。
“かつて”烈風のシンクと呼ばれていたらしい彼。今はただ私の兄弟というだけのシンクだ。
声のした方を見れば、サングラスをかけてフードを被った彼が不機嫌そうに立っていた。
「塩が切れてた」
「あと肉類も」
「知ってたんなら昨日の内に買っといてよ」
「ごめんごめん。でもシンクが買ってくれたでしょう?」
「アンタに期待した僕が馬鹿だった」
シンクは私の肩越しにチラリとルーク達を見て、すぐに私へ視線を戻した。
「家には?」
「今帰ろうと思っていたところ。準備をしたらすぐ仕事に行くけれど」
「そう」
シンクはフードを目深に被り直した後、くるりと踵を返して歩みを進めた。シンクに続こうとする前にもう一度ルーク達を振り返った。
「では、後程あちらの港で」
そのままシンクを追いかけるように走りよった。
皆一様に、驚愕の顔を浮かべていた。
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