04

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「アルマンダイン伯爵より貴殿方の乗る船の護衛を仰せつかりました、護送屋です。短い間ですが宜しくお願い致します」

なるべく簡潔に挨拶を終わらす。
船に乗り込んでから自己紹介と言うのもアレだが、伯爵が事前に言っていたらしくすんなり受け入れられた。マルクトの懐刀には警戒されているけれど、まあそれが彼の仕事だから仕方がない。

一つ誤算だったのは、神託の盾騎士団のヴァン・グランツ謡将がいた事か。
シンク曰く、私達レプリカイオンを造った黒幕の一人が彼らしい。特に彼にはバレないよう気を張らなければならない。面倒な。

その他の者はなんだか私に興味津々らしい。チラチラとこちらを伺っている。話しかけられるまでこのままでいてみようか。
ヴァンがいない方の甲板で、私は潮風でフードがめくれないように気を配りながら相手の出方を待ってみた。

「なあ」

「はい?」

最初に話しかけてきたのは、爽やか金髪の青年だった。その後ろには赤い長髪の少年が腕を組み、そっぽを向いて立っていた。心なしか頬が赤い気がする。

「俺の名前はガイって言うんだ。で、こっちがルーク」

「ボクはミュウですの!」

「ええ、存じております」

足元のチーグルには気付かなかった。小さいな。

「君の名前は?」

ガイはずっとにこにこしているのだが、後ろのルークは何か言いたげに口を開いては閉じ、難しい顔をしたりしている。見ている分には面白い事この上無い百面相だ。

「護送屋を営んでいるセトと申します」

「失礼だが、年がいくつか聞いても?」

「14になります」

「その年で護送屋なんて大変だろう」

「慣れればなんて事ございません」

「そうか。突然すまんな」

中々本題を話そうとしないガイ。後ろのルークの方がよっぽど挙動不審だ。仕方ないからこちらからアクションをかける事にした。

「いいえ。仕事の支障にならなければ会話をするくらい苦ではありません。
他に聞きたい事があるのでしょう?」

にこりと笑みを浮かべながら言えば、ガイは「やれやれ」と言うかのように肩をすくませてルークを振り返った。

「だ、そうだ。何かあるんだろ、ルーク?」

話を振られたルークは途端にあたふたしだした。

「べ、別に俺は……」

「さっき話したいって言ってたのはどこのどいつだ? 聞きたい事があれば言えば良いだろう」

「ばっ……!」

口をぱくぱくさせてまるで陸に上がった魚のようだ。初々しい。私の方が身体的には年下だが。
観念したのか、ルークは一度溜息をついて私を見た。

「……ルークだ」

「はい、私はセトと申します」

「……」

「……」

「……な、なんか喋れよ」

「私はしがない傭兵ですから、ルーク様のような方と言葉を交わすのには許しが必要かと思いまして」

そう言うと、ルークはポカンと呆けた顔をして、それからすぐに不機嫌そうにしかめ面をした。

「いらねーよそんなの、めんどくせー。あとルークで良い。俺もセトって呼ぶ」

「分かりました、ルーク」

いつの間にかガイはいなくなっていた。優秀な使用人なのだろう、よく空気が読めている。

「……セトはどのくらい傭兵やってんだ?」

おっと、他の事に頭を働かせてしまった。
今目の前にいるのは公爵の嫡男。先程はああ言ったが、万が一不敬を働いたとあっては一大事だ。

「どうでしょう。一年はやってますが二年間には至ってないかと」

「やっぱり魔物とかと遭遇したら戦うよな?」

「ええ、護送屋ですから」

「……人間……人を、殺した事はあるか?」

……ああ、なるほど。悩める年頃という事か。

「ありますよ。行商の護送では盗賊にも会いますからね」

淡々と、簡潔に口にした。するとルークは一瞬固まったあと、驚いたような、悲しんだような、怒ったような顔になった。

「っ、なんとも思わなかったのかよ!」

「……」

なんと言うか、ルークには悪いが、この子はお人好しなのだな、と心中で呟いてしまった。

「何も思わなかった訳ではありません」

会話の内容に相応しくないような笑顔。そんな表情を浮かべて、ルークの問いに答えた。

「でも、思っても意味無いことですから。死人を思うより今を生きている人を思う方が建設的でしょう?」

「それは……」

「ルークがどうしてそんな質問をするのか理解しかねますが、人殺し自体は難しい事ではありません。思っているよりも呆気ない。
問題はそれまでの過程です」

「……」

「私は護送屋。だから人も殺す。
その理由を正当化しようとは思ってませんが、それ以外の理由もありません。
守るべきもの、通すべき筋を各々持っているからこそ対立して、時に人を殺す。
……と、一般論では言われていますね」

「……へ?」

黙って聞いていたルークがアホ面を晒した。まあ当然か。
私はもう一度にこりと笑ってルークをまっすぐ見上げた。

「最終的には、人それぞれということです。ルークは他人が提唱した理由付けに納得するような方ではないでしょう?」

「まあ……」

「それなら自分で納得するまで理由を悩み続ければ良い。それが一番です」

「……」

沈黙が広がった。私もルークも口を開こうとしない。彼はきっと自分の理由を探しているに違いない。

「……じゃあ、セトは「ルーク? どうしたのこんな所で」

ルークが何か口にしかけたと思ったらほかから声がした。神託の盾騎士団に所属しているティア・グランツ、ヴァン・グランツの妹だった。

「では私はこれで。船内を一度見て参ります」

「あ! ちょ……」

素早くその場を去る。ルークが後ろで何か言っていたようだったが気にせず甲板から船内へ入った。





「私の理由は、七歳児には少々刺激が強い」

窓から見える青空を仰ぎ見ながら、私はそんな事を呟いた。


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