02

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紆余曲折、斯々然々を経て、今私達は国境の街ケセドニアで暮らしている。
私とシンク、それからもう一人。

「フローリアン!」

「あはははは! 鬼さんこーちらー!」

今シンクが追いかけているフローリアンと。
彼もまた、私達のようなレプリカだ。

廃棄処分となった私達は火口から六人一斉に落とされた。
生まれたばかりなのにまた死ぬなんてなんと勿体無い。
そういう事で私は右手にシンクを、左手にもう一人を掴んでどうにかその場をやり過ごして助かった。
左手で掴んだのがフローリアンという事だ。

「セト!」

「ん?」

「キッチンにフローリアンが入んないように見てるって言ったじゃないか!」

「ごめんごめん。目を離した隙に、だったから」

食卓に備え付けてある椅子に座ったまま笑みを見せれば、シンクはフローリアンの襟首を掴んだまま頭を抱えた。
なんやかんや、彼は面倒見の良い子だ。

シンクも私と同じように、これが二度目の人生らしい。
しかも生まれた状況が一度目と同じような。
だからこそ、一度目には登場しなかった“私”という存在に酷く驚き、当惑したという。

「コイツ包丁握ろうとするから危ないんだよ」

「果物の皮剥きくらいさせてみたらどうかな?」

「まだ無理だ」

キッパリと良い放つシンクはもう立派な兄である。
フローリアンは末っ子。
じゃあ私は長男か?

「皮剥きやりたーい!」

「ダメだ。ほら、もう時間。街のガキ共と約束したろ」

「はーい」

シンクの手からヒョイと逃れたフローリアンは「いってきまーす」と言って、日除けの帽子を片手に扉から日光が降り注ぐ外へ出て行った。

私とシンクは交代で食事の用意と仕事を受け持っている。
対するフローリアンは食料調達係。
いつからかフローリアンは近所の子ども達と一緒に遊ぶようになった。
子ども達の親は共働きが多く、残された子らを集めては街全体を使って鬼ごっこだのかくれんぼだのをしているのだ。
その際日が暮れる頃に一人一人を送って回ったら、お礼という名の食料を両手いっぱいに抱えて帰ってきた。
それからと言う物の、フローリアンの収穫は我が家の家計に大いに影響しているというワケである。

「シンク、皿洗いご苦労様」

「全くだよ。今日の朝食で作り置きのスープが無くなったから鍋まで洗うことになった」

「あーやっぱり」

「セトは? 今日の仕事は昼から?」

「うん、そう。船の定期便を二往復程。もう一往復頼まれたら帰りは遅くなる」

「断れ」

こりゃまたバッサリと切り捨てる。
理由はまあ想像に容易い。
フローリアンが寝付かないのだ。
家に三人揃わない限り彼は意地でも起きていようとする。
以前夜通しの仕事をした時、彼はうつらうつらしながら徹夜をした。
当然その日は子ども達と遊べる筈もなく、結局この家に子ども達が昼寝をしに来たという始末だ。
あれは大変だった。

「分かったよ。じゃあ早めに港へ行って話をつけるとしよう」

椅子から立ち上がり準備をする。
私達がする仕事とは傭兵、つまり船の定期便や行商の護衛である。
腰にベルトを付けて長短二本のナイフを装着。
黒革の手袋をはめてマントを羽織り、ニット帽を被った後最後にフードを目深く被る。
見た目は不審者だが、それ位しないとこの顔は隠せない。
導師イオンと同じ顔は案外面倒事を招くのだ。
それはフローリアンにも言えるのだが、彼は本能的に軍人を避ける節があるので大事に至った事は無い。
念のため帽子を被らせるし、街の人々はそこまで突っ込んでこないから多分平気。
日頃の行いのお陰だろう。

「いってきます」

「いってらっしゃい」

このやり取りもやっと慣れた。
主にシンクが最初渋って言わなかったが、根気よく粘ってここまで打ち解ける事が出来た。

私はにこりと笑い、ドアノブを捻って外へ出た。
今日は面白い事がありそうだ。


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