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討伐隊としてサンドワームに手こずるもなんとか押し留めて、砂漠の生態系に支障をきたさないようにした。帰ってから軽くお風呂に入って、シンク達に一声かけた後に家を出た。留金が緩んだ響律譜をジグと言う技術者に直して貰う為だ。

ケセドニアのマルクト側に位置するディンの店に向かう途中で、見慣れた人を見かけた。

「ノワールじゃぁありませんか」

「おや、セトかい。聞いたよ、サンドワームを殆ど三兄弟で追い返したんだって?」

「情報が速いですね。流石漆黒の翼と言った所です」

世界を賑わす盗賊団。義賊の三人組、漆黒の翼。その中でも一際目を引く女盗賊、ノワール。今日は一人のようだ。いつも一緒にいるウルシーとヨークは不在である。

「情報収集は盗賊の基本さ。怠るはずが無いよ」

ふふん、と得意気に笑う彼女。しかしその笑みはすぐに潜んでしまい険しい物となった。

「セト、アンタが何日か前まで護送していた坊やの一団がまた来てるよ。今アンタが行こうとしてるディンの店にいる」

心配そうにそう言うノワールに、心の中で感嘆した。
実はノワール達漆黒の翼とはバチカルで一度会っている。だから私がルーク達の護送をしていた事はノワールも知っている。しかし、険しい表情をされるとなるとそれだけでは収まらない。

「……そうですか。それは困りましたね」

参った。漆黒の翼には、私が彼らと悪い雰囲気で別れた事はお見通しらしい。この様子だと、私の響律符に不具合が生じていることもばれているのだろう。

「20分くらい前店に入ったのにまだ出て来やしない。多分何かあったんだろうね」

「ノワール……そう思うなら彼らを助けて上げてもよろしいじゃありませんか」

思わず溜め息を吐きながらそう言うと、ノワールは「分かっている癖に」と言って私にデコピンをして来た。痛い。

「アタシが行ってももっと事が大きくなるだけだろうさ。あそこにいるマルクトの軍人に目を付けられてるからね」

それはそれは、不愉快極まりないだろうな。まあ、これは私の見解に過ぎない。ただただ彼の事を嫌っている私は、彼に対してかなり厳しい評価を下している事だろう。

「心中をお察しします」

「まあそこまでした覚えがあるから何も言えないんだけど。じゃ、ディンの事は頼んだよ」

ひらひらと手を振って去って行くノワールに思わず笑みが零れた。

「気になるなら自分で行けば良い物を」

さてさて、彼女達が素直になるのはいつになる事やら。ふう、と息を吐いてから、私は当初の目的通りディンの店へ歩みを進める。足取りは重いが、ノワールに頼まれたからには行かねばならないだろう。





「お取り込み中失礼します。こんにちはディン」

中から聞こえる話し声に少し躊躇するも、素直にドアノブを捻って店に入る。ノワールが言っていた通り、そこにはルーク一行がいた。

「セト!」

皆が一様に気まずそうにしている中、ルークが私の名前を呼んで表情を綻ばせた(いや、初対面の者は疑問符を飛ばしていただけだったか)。そして何故か大佐が店のカウンターに入って粗探しをしていた。なんと間の悪い事だろう。今までよりも下がる事は無いと思っていた彼に対する評価が更に下を行った。ここまでくると天晴れである。

「顔見知りでなければ強盗現場を疑う所ですね」

「勘弁してくれ……」

引き攣った笑みを浮かべるのは、ルークの使用人のガイ。この様子だとマルクト軍人の独断で調べていることが伺える。可哀想に。

「セトの知り合い?」

軍人に家宅捜査されてあわあわしていた店主のディンがキョトンとそう言う。暗に『顔が広すぎる』と言われたような気がした。

「はい。それはともかくディン、先日の事をお願いしたいのですが」

サンドワームの討伐隊に加わる直前に、近い内に響律符の修理と調律について伺うと言っておいたのでこう切り出してみる。予想通り、ディンは渋い顔をした。

「んー、今日はちょっと……騒がしくしたから機嫌悪いかも」

「ははは、そんな気はしてました」

ディンの店に大所帯が入ったとなれば彼――ジグの機嫌が降下気味である事は予想できた。ノワールに頼まれなければ、この様子を確認した瞬間「また後日出直します」と言って対処をしていただろう。

「皆さんこれ以上ディンに用が無いようでしたら、申し訳ありませんが退室をお願いします」

「何故ですか?」

「理由を言う義理はこちらにございません」

帝国軍の師団長の言葉を笑顔でバッサリと切り捨てる。既に条件反射である。

「ボクたちがいると不都合なのでしょうか……?」

次に口を開いたのは導師イオン。眉をハの字にして、捨てられた子犬のような表情。やめてくれ。そんな顔されたら私が悪い事をしたみたいな錯覚に陥る。

「不都合と言うより、あまり人との交流を良しとしない方と会う約束をしていまして。こうも人数がいると恐らく先方が落ち着かないのです」

「そうでしたか。分かりました。皆さん、ここはお暇致しましょう」

あっさり、そう、こうもあっさり、引き下がるとは思わなかった。驚いた。イオンがテキパキと他の者を説得して店から出る様を呆けたように見るしか無かった。

「……今の手際は何だったのでしょう」

「良いじゃない。目的は果たされたようだし」

思わず零した独り言に、少し疲れた様子のディンが伸びをしながら答えた。
ディンがカウンターの内側から出てきて、棚の影に隠れている奥の扉へと足を進める。

「さ、ジグはいつもの通り上の階だよ」

扉の向こうには階段。綺麗に掃除されているその階段、先ほどの驚きを心に残したまま足をかけた。


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