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「言う事は?」

「あー、ただいま」

「ハイおかえり。他には?」

「はははは」

「誤魔化すなこの馬鹿」

帰ってきたらシンクに怒られた。
曰く、私が腕の響律符を外した事には気づいていたらしい。まあ仕方ない事だ。響律符が壊れたのは出港してすぐだったのだから。

「あれほど気を付けろって言ってたのに何してんの。しかもそれちょっと留め金緩くなってるでしょ」

「暫くは大丈夫ですよ。念のた今度ジグに修理を頼みます」

ジグとは、私の響律符であるこの腕輪を一から造った譜業技師だ。譜業技師と言っても、譜術に関しても手広い知識を持っている言わば天才、或いは秀才と呼ばれる部類の人物である。といっても本人はあまり表舞台に出たがらないインドアな人柄だ。端的に言うと根っからの引きニート。譜業の修理を請け負っているため正確にはニートと言わない。しかし、元来彼は他人とのやり取りを苦手とする。その為譜業修理を請け負うマネジメントをしているのは彼の同居人であるディンという少年だ。

「暫く大丈夫ならその前に仕事。セトのせいで家事と仕事が滞ってるんでね」

大した事無いと分かるとすぐ話題転換するシンク。こういう変わり身、効率の良さは彼の長所だ。流石元神託の盾騎士団六神将参謀総長。抜かりが無い。

「取り敢えず今着てる物も一緒に溜まってる洗濯物洗ってよ、あと掃除手伝って。その後、3人で明日の早朝からサンドワーム討伐隊に参入する予定だから早く寝ること。多分討伐には数日掛かるからそれが終わるまで他の仕事は入れないよ。それまでに響律符が壊れる可能性は?」

「問題ないでしょう。あのジグの修理が今日中に終わるとは思いませんから討伐の後の方が安心できます」

「アイツは気が移りやす過ぎるんだよ。一つの事に集中できなくてどんどん他の作業に手を出すんだから。アイツの手綱を握れるのは後にも先にもディンだけだろうね」

「手綱だなんて。単にジグがディンに慣れているというだけでしょう。現に比較的よく会う私も彼との会話はある程度普通に行えますよ」

「ある程度って事は、やっぱりそういう事だろう?」

「……まあ、タイミングが悪ければ門前払いを喰らいますが」

そんな会話の後、洗濯物を片付ける前にディンの所へ。近い内に響律符の修理をジグに頼む事を伝えて貰うためだ。
再び帰宅してそのまま家事に取り掛かる。途中、フローリアンが帰ってきて3人で家を空ける用意をする。

「おかえりセト。明日から一緒の仕事頑張ろうね!」

「ただいま。サンドワームは砂漠の主の一匹ですから、討伐隊と言っても本当に殺すのは最終手段になるでしょう。砂漠の食物連鎖が乱れますし」

「いっその事、カースロットみたいな物でサンドワームを操れれば良いのにね!」

「……それ、ナイスアイディアじゃないですかフローリアン」

「馬鹿じゃないの。第一、人間が魔物の記憶を辿っても分からない事だらけだろう。特にサンドワームの記憶なんて殆どが地中に決まってる。理解不能のまま思考がショートする可能性も有るのにそんな危険な事できるか」

「でも発想は悪くないでしょう? つまりはサンドワームの行動範囲を制限できれば良いという事なのですから」

「なら人間を介する譜術じゃなくて、制限行動範囲外に出る度に自動起動する譜業の方がよっぽど建設的だね」

「なるほどー。じゃあそういうの造れないか今度ジグに聞いてみようよ!」

「では今度お会いする機会に私から聞いてみます。彼なら喜んで協力してくださるでしょう」

「ダメならダメで当てがない訳じゃないけどね」

カースロットの話が出た時一瞬冷や汗をかいたが、私が烈風のシンクからそれを受けた事はバレていないようである。もしかしたら気付いていてあえて触れてこないのかもしれない。
どちらにしても、いつか二人にはこっ酷く怒られそうである。


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