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「私は登城を控えます」
至極当然の事を言ったはずだった。なのにどうしてここまで批判されなければいけないのだろうか。
「セトは俺の護送をしてるんだろ? 俺が家に帰るまで一緒にいるのが普通だって!」
「僕も、まだセトとお話したいです」
「イオン様がこうなるとアニスちゃんにも止められなんだよねぇ」
「頼むよセト、ルークがここまで懐くのはヴァン謡将以来なんだ」
「何もそこまで遠慮する事は無いと思うわ」
ダメだこいつら。早く何とかしないと。
顔も見せない相手に対してどうしてこうも登城を促すのか。あれか、もしかすると皆グルになって私に嫌がらせでもしているのだろうか。
最後の頼み、と今まで何も口を挟まなかったマルクトの懐刀に視線を向ける。と言ってもフード越しの私の視線に気付くか分からないが。
「それがよろしいのでは? 目の届かない所で勝手をされても困りますし」
「それについて心配には及びません。報酬を貰い次第、一泊した後明日一番の便でケセドニアへ帰ろうと思います」
「それを私が信じると本当にお思いですか?」
「思いません。が、私は登城できるほどの身分ではない事も事実です。貴方にはご理解頂けると思ったのですが」
「正直私はまだ護送屋殿の事を信用していませんから。妙な事をしないか監視していたいのが本心です」
「……」
この男、この上なく面倒だ。
なんだコイツ、思っていたよりも思考回路がワケ分からない。いや、言いたい事は分かるが、それを今ここではっきりと言うだろうか普通。
「私は同意しかねます。自分のミスではありますが、私は今カースロットに侵されています。その状態で一国の王に謁見するなど言語道断。それでも私を同行させますか?」
もうこうなれば躍起だ。意地だ。絶対譲らない。そもそも私の護送屋としての任務は既に終了している。ルーク達にはああ言われたが、私がここに残る必要性は微塵も無い。無いったら無い。元々、船を降りてすぐ帰る予定だったのだ。ああ、そう考えると急にイライラしてきた。
「では謁見中は衛兵の者と一緒にいてもらいます。それなら「冗談じゃない」
だから、言葉を遮って反論した。ここはキムラスカだ。マルクトの彼に少し口答えしたとしてもどうともならない。
「私の任務は既に終了しています。報酬はアルマンダイン伯爵に私からご連絡申し上げ、頂く事にします。これ以上私に関わるのならそれなりの理由がいります。信用していない? そんな事承知の上です。妙な事をしないか監視? それが嫌だからキムラスカにもマルクトにも属さないのです。私達の未来を決めるのは私達です。貴方に決められる筋合いはありません」
そこで一度言葉を切り息を吸う。
「今しがた気づきましたが、シンクと同じく私も貴方の事が嫌いです」
ディストとはまた違う嫌悪感。どうしても目の前の彼の事はこれ以上見ていたくない。
「失礼します」と一言言った後、踵を返して港へ向かった。特にルークとイオンの視線が背中に突き刺さったが構わない。責めるならジェイドを責めれば良い。
「(ああ、早く帰りたい)」
「おかえり」と迎えてくれるあの家が、今はひどく恋しい。
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