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私の過去(嘘)を話した後、すぐに伝令の者がやって来た。神託の盾騎士団の襲撃である。
何となくシンクからはこれから起こるであろう事を聞いていたが、正直肩透かしを食らった。
「神託の盾の騎士は形にこだわる集団なのでしょうか」
船室に入ってきた三人の神託の盾を伸した後、首を捻ってそう言ってみた。剣の型にこだわりすぎて見切りやすいといった印象を受けたのだ。神託の盾騎士団と戦闘するのはこれが初めてなので何とも言えないが。
その間にも、他の者達で船橋の占拠を食い止める事にしたようだ。
私は通常通り皆の護衛。仕事ですから。
「強いんだな、セト」
急にガイに話しかけられた。
「いえ、私はまだ発展途上です。今は体が小さいのでガイにも劣らない速さがありますが、今後どうなるかは分かりません」
返答すると「頼もしいな」という言葉と共に爽やかな笑みを頂いた。うん、眩しい。
「ギャー! ヅラー!」
可笑しなBGMで少々気が散ったが。
甲板に出てもそこには何も無く、拍子が抜けたルークが飽きたような様子で口を開いた。
「敵のボスはどこにいるんだよ!? さっさと終わらせようぜ!」
ご尤も。私としても仕事を円滑に済ますには相手に早く出てきて貰いたい。
ふと、上空から気配を感じた。視線を上げると、無駄に造りが豪華な椅子が浮いていた。その椅子に座っている人物が、にやりと笑ったと思ったら高らかに笑い出した。
「ハーッハッハッ! とくと聞くが良い……我が美しき名を。……我こそは、薔薇の「おや、鼻垂れディストじゃありませんか」
「バーラ! バ・ラだ! 薔薇のディスト様だ!」
「死神ディストでしょ?」
「黙らっしゃい! そんな二つ名認めるか!」
「何だよ、知り合いなのか?」
「私は同じ神託の盾騎士団だから……でも大佐は?」
「そこの陰険ジェイドはこの天才ディスト様のかつての友」
「どこのジェイドですか? そんな物好きは」
「何ぃ!?」
「ほらほら怒るとまた鼻水がでますよ?」
「キィー! 出ませんよ!」
「あ、あほらし……」
「こういうのを置いてきぼりって言うんだな……」
「まあ良いでしょう。音譜盤のデータを出しなさい」
「これですか?」
「ハハハッ! 油断しましたねジェイド!」
「差し上げますよ、その書類の内容は全て覚えましたから」
「っ、ムキィー! 猿が私を小馬鹿にして!」
何をするでもなく、何もせずとも目の前ではコマ送りのように事が進んでいった。それでも私は、空に浮かぶ白髪の男から目が離せないでいた。
『吸収する力は良好だが発散が上手くいかないようだ。』
『それでは導師は務まらん。』
『また廃棄、か。』
覚えている。
この世界に生まれ落ちて間も無く、白衣を着て並んでいた男達。その中で唯一言葉を発する事をしなかった男。最後に、私が部屋へ押し込まれる瞬間こちらへ一瞬視線を寄越した男。
この世界に生れ落ちて、私が最初に『嫌いだ』と思った奴、それがディストだった。
「お元気そうで何よりです」
誰にも聞かれないように、そっと小声で呟いた。
あの時寄越されたのは罪悪感に満ちた視線。あれよりかは幾分見れる目をしている。
ああ、本当にお元気そうで何よりだ。
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