09
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どれ位経った頃だったか、ふと部屋の空気が止まった気がした。
目を瞑っていたため、視覚と聴覚の無い状態の自分。そんな私は気配の変化にとても敏感になっていた。
だからだろう。自分が考える前に、脊髄反射の如く、フードに伸ばされたジェイドの手を捻り上げてしまっていた。
しかしそんな自分の条件反射には感謝しないといけないだろう。
私達の顔は見られてはいけないのだ。少なくとも今は。
「……意気地が悪すぎやしませんか?」
取り敢えずおちゃらけた風を装って笑ってみた。
止められると思っていなかったのか、はたまた自分の行動に驚いているのか、ジェイドが珍しく戸惑うような表情をしていた。それは位置的に私にしか見えなかったが、はっきりこの目で見た。
耳栓を外してベッドの上から床へ降りる。そこで初めてジェイドの手を放した。
「なんでそんなに私達の顔を見たがるんですか?」
知ってるけど。
「いえ、何故そんなに隠したがるのかと思いまして」
まだ痛むのか、ジェイドは私がさっき掴んだ腕を擦っていた。
「知りたいんですか?」
にやりと笑って勿体ぶる。
「ええ、是非」
直球で返された。
私は少し間を空けて、それから溜息をついた。そして、わざとらしく嫌そうにしてみせてから口を開いた。
「私達兄弟は、戦争孤児なんです」
部屋にいた全員が息を呑んだ。ジェイドだけは、真実を見定めるかのような目のままだ。
「その時に全員顔に傷を拵えてしまいましてね、それ以来こんな出で立ちです。
だからシンクは『軍人が嫌い』と言ったんでしょう。正直、私も個人的な知り合い以外の軍人には嫌悪感を抱きます」
まあ嘘だけど。
これはケセドニアに住み始めた頃から作った私達の設定だ。だからケセドニアの皆は私達の素顔を無理に見ようとはしないし言及もしない。
「ああ、でも私はシンクやフローリアンより大丈夫だと思います。トラウマがあるという訳でもありませんし、仕事に差し支えないので悪しからず」
もう一度笑って見せれば、ジェイド以外の部屋の住人は皆居心地悪そうに視線を反らした。
「……気を悪くさせたのなら謝ります。すみません」
「いえいえ、お気になさらずどうぞご公務に集中なさって下さい。貴殿方国の中枢が私達のような存在を増やすか減らすかを左右しますから」
自分で言うのもなんだが、よくもここまで嘘八百を並べられるものだ。多分ジェイドは私の話に納得したのではなく、これ以上聞いても無駄だと判断したのだろう。
あー面倒。
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