08.5

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- sideジェイド -

最初に護送屋を見た時は警戒心しか無かった。
否、正しくは今でもそうだ。

元々キムラスカ側が見繕った傭兵としか思っていなかった。
顔の半分をフードで隠し、見えている肌の部分と言えば全身を見ても口元だけ。
まさかこんな子どもが、噂の“護送屋のセト”と誰が思おうものか。
ルークが彼を「セト」と呼んだ時は信じられなかった。

彼の兄弟にも驚く点が有ある。
名をシンクと言うらしい。

先日コーラル城で見た烈風のシンクは、まるで機械仕掛けのように淡々と物事を捉え対処していた。
明らかに、心当たりがあった。
フォミクリーだ。
確信は持てない、いや、持ちたくもない。
導師イオンのレプリカだなんて可能性、今のイオン様さえレプリカかもしれないなどと。
だがあちらにはディストがいて、装置らしき物もコーラル城にあった。
疑うべき要素が多く混在する。

無意識に、レプリカという自分の罪に嫌悪感を抱いていたのだと思う。
既に護送屋のセトを疑うことでしか接する事が出来なくなっていた。

護送屋の兄弟のシンクは烈風のシンクと似ても似つかない性格の持ち主だった。
暴言を口にするような感情豊かな子どもで、しかしやはり頭と目元を隠していた。
もう一人のフローリアンと言う子もそうだった。
そちらはその名の通り、純真無垢な性格だ。
突如現れた烈風のシンクに追われるように港へ行く途中、しんがりを守っていてくれた。

「おいっ、セトは良いのかよ!」

ルークがフローリアンにそう問い掛けた。
問い掛けたと言うより叫んだと言った方が正しい。

「大丈夫だよ、セトは仕事熱心だもの!」

そう言って彼は笑った。
信頼しているのだろう。
しかし目元はやはり見えなかった。
シンクはサングラス、フローリアンはゴーグル。
この兄弟は皆顔を見せたがらない。
それはきっと、彼らが顔を見せると不都合が起こるから。

船に着く頃にはフローリアンの姿は無かった。
そう言えばシンクが、自分達は軍人を嫌っていると言っていた。
それが嘘か本当か、目元が見えない相手から感情を読むのは容易ではない。





暫くして皆が集まった船室にルークとイオン様、それに護送屋も来た。
ルークとイオン様は何故か異様に彼の肩を持っていた。
理由を聞いても、兎に角悪い人ではないと言い募るばかりで分からない。
今はこちらに背を向けてコンタクトを遮断しているが、ルークもイオン様も時折彼の背中を見る。
それについて何を言うでもなく、本題に入ることにした。

「音譜盤に少々キズがあったのかもしれません。一部文字化けが起こっています。
ですが見る限りでは同位体についての研究資料のようです」

音素振動数やそれらの詳しい統計の様なもの。
私は他の者がルークに基本的な知識を教えている間もずっとその資料を読んでいた。

ふと顔を上げると、護送屋の背中が目に入った。
その時私が何を思ったかなど自分でも理解が出来ない。
しかし、私の足は確実に彼へ向かい、手はそのフードを取り払おうと上げられた。
誰のか分からない、息を呑む音が聞こえた。


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