08
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「目的物を確認。任務の遂行を最優先とし、これより行動を開始」
機械的な物言いに少し眉をひそめながらも前へ出る。
「フローリアン、彼らを港まで。シンクは街の人の誘導を」
「はーい」
「人使いが荒いんじゃない?」
「お仕事ですから。その分報酬は弾みますよ」
フローリアンが彼らを有無を言わさず港へ走らせたのを確認し、烈風のシンクと対峙する。
「目の前の障害物を妨害者と認識。『早急に対処し目的物の奪還を急ぐ』に行動を変更」
「すみません、それはご遠慮願います」
言うが早く、私と彼は同時に地を蹴った。
先程のナイフの軌道が見切られた所を見ると、中距離型の武器は効かないと思って良い。そして一対一の状況。自然と、体術のぶつかり合いという超近距離型の戦闘となる。しかし、ここであまり戦闘を長引かせては民間人に被害が及ぶ。
勝負は最初の一発だ。
「どっ、せい!」
「っ……!」
どんな掛け声なのかって? 当たれば万事OK。
因みに私がしたのは、所謂飛び蹴り。相手は予想していなかったのか、寸でで防御して受け身を取るだけだった。
「ごめんね。また今度君とは会いたいと思うよ」
そう言い残して私はその場を後にした。
「……カースロットの刻印に成功」
倒れた彼がそう言ってヨロヨロと立ち上がったことに、私が気付く筈もなかった。
港に着いた時には既にフローリアンの姿は無く、船は出港直前であった。ギリギリで船に乗り込んだ所でルークとイオンがすかさず駆け寄ってきた。
「大丈夫だったか!?」
「お怪我はありませんか!?」
「お気遣い痛み入ります。この通り無傷ですので」
あまりにも切羽詰まったような問い掛けだった。思わず降参する時のように両手を顔の横までの高さに上げた。二人して大袈裟に安堵の色を見せた。
「あまり無理をなさらないで下さい」
「全くだぜ。もし間に合わなかったら俺らの護送はどうすんだよ」
イオンは眉をハの字にして、ルークは憤慨したようにそう言った。いやはや、そうは言われても。
「私は護送屋ですから。分をわきまえているつもりですし仕事を途中で放り出す程プロ意識に欠けた行為はいたしません」
「「そういう事じゃない(ありません)!」」
「はぁ、そう仰りましても……」
なんだろう、仕事をこなして来たのに怒られたのは初めてかもしれない。それに、二人が頭を抱える理由が分からない。
「あー、もう良いや。無自覚なんだなお前」
「その様ですね。ですがご無事で良かったです」
心外な事を言われた気がする。言及するのも癪なので流すことにした。
「今皆船の中の部屋にいるんだ。セトも来いよ」
ルークが気を取り直したように甲板から船室へ続く扉を親指で指差した。
「いえ、私は見張りをします。私が居ては立ち入った話も出来ないでしょう?」
「良いんだよ!」
「えー……」
おっと思わず心の声が。内に留めておく事が出来なかった。というかこの二人は私を気にかけすぎやしないだろうか。導師守護役のアニス・タトリンや使用人のガイ・セシルに白い目で見られないか心配である。
案の定、一行が揃っている船室に入ると怪訝な目を向けられた。
「護送屋殿はもっと配慮ある方と思っておりましたが?」
「いやぁ、私も甲板に残ると申し上げたのですが……」
ジェイドの言葉を受けながらルークをチラリと見やる。ついでに彼にガッチリ掴まれた左手首もさりげ無く見せつける。
「良いじゃねーか、別に聞かれてまずい話でもねーし」
「ルーク、私達は一応秘密裏に動いているのよ? これ以上外部に情報が漏れる行為は控えるべきだわ」
的確な事を言っているように聞こえる。しかしティア嬢、すでに情報の漏洩は充分過ぎる程しているのでは。
意外にも、ガイとアニスは事の成り行きを見ているだけであった。イオンは私の後ろで苦笑していた。
「あのー、よろしいですか?」
私は、ティアに食って掛かろうとしたルークを引っ張り留めながら口を開いた。
「ルークは私にこの場にいて欲しいと仰るのですよね?」
「まあ、そうだけど……?」
「そちらは私に極秘事項を聞かれてはお困りになると」
「ええ、そうよ」
「でしたら私は耳栓をして後ろを向いてましょう」
単純明快、一番手っ取り早い方法を提案してみた。
相手が何かを言い出す前に持ち物の中から目当ての耳栓を取り出す。確認をさせるため、一番疑り深いジェイドに投げて寄越した。
「……よく見るメジャーな耳栓ですね」
「ええ、性能は一般的な中の中です。内緒話をなさるには充分かと」
手にとって暫く確かめた後、ジェイドは一つ息をついてそれを投げ返した。
「良いでしょう。これ以上押し問答しても時間の無駄です。ルーク、それで良いですね?」
「……セトが良いなら別に」
ルークの返答を確認して、私はやんわりと手を振りほどき二段ベッドの下の段に潜り込む。壁側に体を向け胡座をかいてから耳栓を付けた。ごわごわとした音がした後、すぐ無音に近い世界へ入った。
全く、面倒な人達だ。
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