07

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暫く街をぶらついていればフローリアンの方から見つけてくれる。今回も例に漏れずあちらから来てくれた。

「人ん家の屋根に登るなって何度言ったら分かるんだ!」

「えへへー」

只今絶賛シンクからのお説教を喰らっているが本人は飄々としている。事もあろうに、フローリアンは酒場の屋根の上から私達の目の前に飛び降りて来たのだ。なんと身軽な子だろう。
未だにシンクはフローリアンを叱りつけている。
……なんというか。

「シンクって、良いお兄さん像が板についてきたよねぇ」

「セト! そんなんじゃなくアンタも何か言いなよ!」

「セトー僕が一番早く生まれたから兄貴は僕だよー」

シンクはそんなに怒らないで落ち着いて。フローリアンは立派な街の皆の兄貴だから大丈夫。

「「セト!」」

「あはは」

いつもこれがパターン化している。フローリアンの悪戯にシンクが怒って、その後私が会話にちょっかいを出して話が刷り変わる。シンクは溜息一つで怒るのを止めてフローリアンも暫くは大人しくなる。

「そうそうフローリアン」

「なーにセト?」

「今日のお仕事は帰りが明日になると思う。私が帰ってこなくてもちゃんと寝てくれな?」

「……はーい」

フローリアンは基本的に聡い子である。今も仕事の内容を聞くこと無く素直に頷いた。きっとゴーグルに隠れた目元は今「仕方ないなー」とでも言うようにしているだろう。

「流石事実上の長男」

「馬鹿にされてるー?」

「いやいや、思わず口に出ただけ」

「んー、そゆ事にしといてあげるー」

「ありがとう」

フローリアンの後ろでシンクが見るからに安堵していた。うん、フローリアンって機嫌を損ねると一番厄介だもんね。

「セト!」

後方から呼ばれた。振り返ると、今沈み行く夕焼けの色に似た色彩の髪の毛を持つルークが走り寄ってくる所だった。彼の後ろには他の者が歩いて来ている。
隣にいたフローリアンが、ピクリと反応した。それに気付いたシンクが口を開く。

「今回のセトの護送対象。一応お客様だから失礼な事しないでよ」

「しないよー」

唇を突き出して不満げなフローリアンを見て、シンクは「なら良いけど」と言い一行に目を向けた。その際、何気無くフードの裾を引っ張ったのは流石というか、よく気が回る。

「あれ、誰だそいつ?」

近くまで来たルークがフローリアンを指差して言った。そういえば直接会わせていなかったか。

「フローリアンです。先程お話した兄弟ですよ」

「初めましてー、フローリアンです!」

「あ、ああ、俺はルークだ」

「へー、ルークかー。よろしく!」

「お、おう」

フローリアンはにへらと笑ってルークに対応した。ルークはそんなフローリアンに一瞬戸惑った顔をした。しかし、敵意は無いと判断したのかすぐにそれに受け答える。

「古代イスパニア語で『無垢な子』という意味ですか。良い名ですね」

追い付いてきた者達の中では、導師イオンがにこにこと笑って喋りかけてきた。その他の一行は少々顔を強張らせている。

「皆さん用事はもうお済みで?」

それに気付かないふりをして質問をする。答えたのは予想通りの人だった。

「ええ、大体は済みました。最後に一つよろしいですか?」

ジェイド・カーティスその人だ。

「なんでしょう?」

「失礼ですが、シンク殿のそのサングラス、外していただいても?」

「っ、大佐!」

ティアが咄嗟に抗議の声を上げた。ルークはバッとジェイドを振り返り、他の者も目を見開いて彼を見る。
対するこちらは何の反応もせずにいた。

「理由は?」

飄々としてシンクがそう言った。

「少し気になる事がありまして」

「そんな理由じゃ見せらんないね。僕の素顔は高くつくよ?」

「おやおや、顔を見せられないような後ろめたい事が過去におありだと思われてもよろしいのですか?」

「アンタがなんと言おうと絶対見せない。そもそも僕らは軍人が嫌いなんだ」

「それはそれは……」

取り入る島もないような受け答えに、ジェイドは目を細めた。というかシンク、君演技上手いね。

そうでも無いでしょ。(byシンク)

「まあまあ。それはそうと皆さん、烈風のシンクとは敵対関係ですか?」

私の言葉に全員が反応した。皆一様に驚いている。

「それを知っているという事は、疑いを確信として良いという事ですか?」

「何の事やらですが、ただの確認ですよ大佐殿。私は貴殿方の護送を頼まれていますから」

ナイフを数本取り出して、一行の間を縫うように投じた。
そのナイフの先にいたのは。

「貴殿方を脅かす存在は排除しなければなりません」

黒と緑を貴重とした団服で身を包み仮面で顔を隠す、“現在の”烈風のシンク。

「さて、お仕事をしましょうか」

自ずと、口元が歪む。どうしてもワクワクしてしまう。君は、どんな子なのだろう。

明るい緑色の髪の毛を一つに纏めている彼は、ナイフを避けるために動きを止めていた。


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