05.5
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- sideガイ -
「ねぇ……あの子、シンクって」
ティアがその場から動かないまま口を開いた。しかし、その後に続く言葉が出てこない。
そりゃそうだ。
俺も驚いて言葉が出なかったのだ。
「“シンク”とは……最近聞いた名前ですねぇ」
皆の心の声を代弁したのはジェイドだった。
「背格好だって似てたし、しかもあの“烈風のシンク”とおんなじ名前なんて」
「偶々と言うには、些か疑問点が残ります。それに護送屋殿は彼を兄弟だと言っている」
アニスやジェイドも同じ事を考えていたらしい。俺は、コーラル城での事を思い出していた。
どう見ても導師イオンと瓜二つだった烈風のシンクの容姿。仮面で隠された顔を見たのは俺だけだ。
「ガーイー、ガイはシンクの顔見たんでしょ?」
「あ、いや、見たは見たけど一瞬だったからなぁ」
アニスの言葉に、咄嗟に嘘をついた。言ってはいけないような気がしたのだ。烈風のシンクと導師イオンが同じ顔をしているなんて。
「まあでも、さっきのシンクは烈風のシンクと全然違った雰囲気だったのは確かかな」
「確かにそうだけど……」
まだ腑に落ちないのか、アニスは眉間にシワを寄せた。
「皆、何言ってんだよ……」
ふと、ルークが口を開いた。
「アイツを……セトを疑ってるのかよ!?」
「ルーク?」
「アイツは敵じゃない! 俺には分かる!」
凄い剣幕だった。例えるならば、師匠と呼んでなついているヴァンをバカにした奴を目の前にしたような。
「ルーク、別に俺達は疑ってるとかそう言うんじゃなくてだな、ただ、その、皆セトの事をあんまり知らないから」
「だからって……!」
ルークは俺の言葉に尚も憤慨した。憤慨を通り越して心なしか泣きそうである。
ここまでルークがセトに入れ込んでいたとは思わなかった。船の上で何を話したのかは知らないが、ルークにここまで言わせるような会話をあの数分で話したとは誰が思うものか。
「ではルーク、貴方はどうしてそんなに彼を信頼しているのですか?」
「だってアイツは!」
ルークはジェイドの問いに勢いよく振り返る。
しかし、何かを言おうとして急に口をつぐんだ。
「……セトは悪い奴じゃない」
沈黙が広がった。
暫くしてその沈黙を破ったのは、ずっと口を挟まなかった導師イオンだった。
「僕もルークの意見に賛成です」
小さく手を上げて俺達の注目を引き寄せるイオン様。その目は揺るぎない。
「偶々という可能性も捨てきれませんし、第一街の子ども達にあれほど慕われているのです。ルークの言う通り、少なくとも悪い方では無いでしょう」
「イオン様は他人を疑う事を覚えて下さいぃ〜」
アニスが眉をハの字にしながらそう言った。
「そうですね。ですがこれだけは譲れません」
「……イオン様?」
「彼は、悪人ではありません」
何故か、導師イオンの言葉が重く感じた。
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