【君の明日へ】の続編になります。

読んでいなくても読めます。
それでも大丈夫な方のみ先にどうぞ…。


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「ホンマに言わんとえぇんか?リーダー」
「あぁ…」
「まぁ、気持ちは分からんでもないんやけどな…みんな悲しむで?」
「そうだな……でも、最後の最後まで悲しい顔なんか見たくないから。許してくれよヒューイ、これは俺の“ワガママ”なんだ」
「……さよか」



リーダーは意外と頑固者らしく、自分の考えを曲げる気はないらしい。

せやけど、みんなにその時まで何も言わんと消えるなんてあんまりやで。ワイは偶然聞けたから覚悟でも何でも出来とる。
けどみんなは覚悟も何もしとらんし、リーダーが消えるなんて考えてもおらんハズや…特にチビッコの事を考えると不憫に思えてくるわ。

ワイは仲間思いやさかい、このまま引き下がる気はないで。そう、コレはワイの“ワガママ”や。


リーダーと別れた後、部屋には戻らず研究室のドアをくぐる。滅多に来んワイの姿にジイさんが目を点にしとった。



「ふむ珍しい客じゃな、どうしたんじゃ?」
「ジイさん今ヒマか?」
「そうじゃな、ちょうど研究も一段落したところじゃが…」
「よし、ならちょっと手ぇ貸してくれへんか?そう手間はとらさせへんわ」
「それは構わんが…何をする気じゃ?」



うーん…何て言うたらえぇんかな。具体的に言うたらリーダーとの約束破る事になるし。

……そうやなぁ。



「ちょっと実験せんか?」



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死闘の末、俺達はシオンを倒した。

コレで世界の異常気象も回復していくだろう。やっと目的を果たせたんだ。

だから旅は終わる。俺達の長い旅が…そして俺の存在も、



「…いいえ、まだです。この方の肉体からダークロード様の魂を取り出さなければなりません」



俺の存在も、消える。



「でも…そんな事をしたら」



隣に居る彼女が非難する様に呟く。
彼女に一緒に来てくれないかと声をかけたのは俺だ。だけど…正直迷っていた、俺が消えるのを…輪廻の輪に旅立つ時を彼女に見せてもいいのだろうかと。

仲間が“死ぬ”瞬間を見守るなんて、まだ幼い彼女には荷が重すぎないかと。

でも、俺が消える最後の最後まで彼女と一緒に居たい。


彼女に対する配慮を考えてるくせに自身のワガママでこの状況を作り出している。矛盾している俺の気持ち。



「しかし、いつまでもダークロード様の魂が居座り続けたら元の体の持ち主であるグレイ・ギルバートの魂が消えてしまうのです。それに私は憑依の秘術を使う前にダークロード様が言い残した言葉を覚えています。『シオンを倒した暁にはおとなしく死を受け入れる、体の持ち主を救ってやってくれ』と」



もし生前の俺がその遺言を残さなかったら俺は消えずにココに居られたんだろうか、そんな馬鹿な事を考えてしまった。

彼女が俯く、表情が見えない。でもそれで良いかもしれない。
彼女の表情が見えないんなら、彼女からも俺の表情も見えないから。



「……一つ聞きたいのだけど、肉体を失った魂はどうなるの?」
「肉体を失った魂は輪廻の輪に戻ります、そして転生の時を待つのです。貴女も闇の精霊使いの素質を持つ者、受け入れなければなりません」



もし彼女が俺達と旅をしなければ、その素質に気付く事もなく平和に幸せにあの村で過ごせたのかもしれない。闇の精霊使いの使命を知らないままに。

精霊使い長が彼女に諭す様に伝える。



「それにこの体が無くなる訳ではありません、安心しなさい」



そうだ、この体は…グレイ・ギルバートは消える訳じゃない。今まで体を勝手に借りてたんだ、グレイの意思とは関係なしに。


ありがとう、グレイ。


そう心の中で呟いてみても、やっぱり返事なんて聞こえてくるハズがなかった。



「……違う」



俯いたまま彼女はそう呟くと顔を上げ、精霊使い長に訴えかける様に声を張り上げていた。



「違う、違う、違う!魂が違ったらそれは別人じゃない!私が好きなのは外見だけじゃないのっ」



……今、彼女は何て言った?

好き?誰が?誰を?



「…それにスレインもスレインよ!」
「……え?」



名前を呼ばれて思わず彼女の方を向くと、彼女もこちらを向いていて顔を真っ赤にしながら俺を睨み上げていた。



「だって消えなきゃいけないって言われてるのに何も言わないって事は知ってたんでしょ?こうなる事を…なのに、何で私達に教えてくれなかったの?」
「それは……みんなの、悲しむ顔なんか見たくなかったから…」



初めて見る彼女の怒っている姿に圧倒されてか、俺の口からは思っていた事が素直を出てきた。
でも俺の返事は火に油だったらしく、彼女の怒りは収まらない。



「そんな理由で言わなかったの?…自分勝手過ぎるわ」
「…ごめん」
「……いつから、分かってたの?」
「ココに……初めて来た時に」



彼女の瞳が大きく揺らいだ。思い出したんだろうか、ココに初めて来た時にピートさんの死を打ち明けられた事を。



「……のに…」



俺を真っ直ぐに見据えていた彼女の瞳から涙の滴が零れ始めた。



「…ずっと一緒に、居てくれるって……言ったのに」



そうだ、俺は確かに言った。
ドコにも行かないでと涙を流しながら俺にすがる彼女に、

俺はドコにも行かないよ、ずっと一緒にいるよって。


ドコかに行くのも知っていて、ずっと一緒に居れないのも知っていて……あれ以上、彼女を悲しませたくなかったから。



「……ごめん、約束…破って」



止まらない涙を隠す様に俯く彼女の肩に触れようとした手を止める。これ以上、グレイの体を借りる訳にはいかない。



「………何で、言ってくれなかったの…?分かった時に、言ってくれたら…今をどうにか出来たかも、しれないのに…っ」
「そんな事…どうにかなんて、出来ないよ」
「どうして決めつけるの…?それは、スレインが一人で勝手に考えて…勝手に一人で決めただけでしょう?……アナタは、一人じゃないのに…私たちが居るのに」
「よく言った!」



彼女の言葉に同意する別の声が響いた。それは今の今までこの場に居なかった人物だったで、驚いた俺と彼女は声のした方を向く。

驚いて涙が止まったのであろう彼女が声の主達の名前を呟いた。



「ビクトル…ヒューイ?」



そう、ソコには手ぶらのビクトルと、大の男が入るであろうサイズの箱を背負ってひいこら言っているヒューイが居た。
俺達の傍まで来ると、背負っていた荷物を下ろしヒューイが恨めしそうにビクトルに訴え始めた。



「ジイさん…ズルいで、ワイ一人にこないなもん…背負わせて」
「二人共、どうしてココに?」
「“コイツ”をお前さんに渡す為じゃよ」



そう言ってヒューイが背負って来た箱にビクトルが触れると小さな機械音を発しながら箱が開く。

中を見て思わず目を見張ってしまう。それはモニカもラミィも同じだった様で、驚愕の声が小さく漏れるのが聞こえた。


……その箱の中に眠っていたのは紛れもない“俺”だった。



『スレインさんのそっくりさんがもう1人!』



ラミィが俺の肩から離れ“俺”の周りを慌ただしく飛び回る。

……魂を感じない。
人の形をした魂のない体、覚えがある…と言うか忘れる訳がない。宿敵であったシオンが隠れ蓑の様に使っていた体。


コレはまさかー…



「シオンがやっていた方法から思い付いてな。こんな事もあろうかとお前さんのホムンクルスを作っておいたんじゃ」



やっぱりホムンクルスだ。
でも、こんな物をこの事態を予知して作っておくだなんて…まさかヒューイが?

そう思ってヒューイを見るけど俺の視線も気にせず、ぜぇはぁ言いながら肩で息をしていた。



「精霊使いのあんたなら、この体に魂を移す事が出来るんじゃないかな?」
「はい、器さえあれば冥界に送る必要はありませんから…」



そう答えて精霊使い長は目を閉じて意識を集中し始めた。何か呪文の様な言葉を呟いていると分かった時には、既に体から力が抜けていて。



「スレイン!?」
『スレインさん!』



力がどんどんと抜けていく、立っていられず膝をつく、


景色が歪む

…意識が、遠くなっていく



「……ス、イ…ン………!」



……彼女の声が遠くに聞こえたのを最後に


俺は完全に意識を失った…。



・Next・

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続きます。