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「……なぁモニカ」
「なに?」



名前を呼ばれたモニカは、スレインの方へと小さく寝返りをうった。

今夜の見張りはスレインで、他のみんなは寝ついているハズの時間だった。しかし眠りが浅かったのかモニカが身動ぎして目を覚まし、起きていたスレインとぽつぽつと喋りあっていた。


こういう事は希にあって最初は眠る様に促していたスレインも、喋っている途中でモニカが眠りに落ちる事に気づいてからは何も言わなくなっている。



「モニカはさ、この旅が終わったら何がしたい?」
「この旅が終わったら、ね…」



世界を守る為の旅、シオンの野望を食い止める旅。


もう終わりは見えている。

皆既日食まで5万の魂を集めさせず、そして本体で現れるシオンを倒す。


世界の異変を止めるという途方もなかった旅も、

もうすぐ終わる。



「……そうね。旅の途中の頃は、ビクトルに弟子入りでもしてミシェールの病気を治してあげたいって思ってたわ」



ふーん、と小さく唸りスレインが自分の膝に肘をのせ頬杖をつく。



「意外だな、モニカがビクトルに弟子入りを乞うなんて」
「そう?フェザリアンという種族はその思考や性格から科学者には向いてるもの。半分だけどそれを私だって継いでいるんだから」



それもそうか、と内心スレインは思う。

子供らしからぬ冷静さと知能を持つモニカなら、科学者という職業は確かに天職とも言えるだろうから。


しかし、それは…



「…さっき“旅の途中なら”って言ったよな。じゃあ今は?」
「今は…」



そこで一旦言葉を止め、
モニカは少し間を空けてから続けた。



「闇の精霊使いとしての素質があるって分かったから。輪廻に戻れない魂を助ける旅がしたいわ、まだまだ精霊使いとして未熟者にもなれていないけど…世界を巡って救われない魂を助けたい」



そしていつか父の様に立派な精霊使いになりたいの、そう付け足したモニカにスレインが微笑む。



「その心意気だけでも、もう立派な闇の精霊使いだよ。モニカならきっと多くの魂を救えるさ」
「…まだラミィが見えるだけなのに買いかぶりすぎよ」



そう言ってモニカの視線が動くのを感じ、スレインもその視線を追う。

二人の視線の先には、
寝袋の中で一定のリズムで寝息をたてている弥生と、その寝袋にちょこんとお邪魔してすやすや眠るラミィの姿があった。


旅に出ている時ラミィはスレインの所で必ず眠る訳ではなく、弥生やモニカの所で眠る事がある。

要はスレイン以外の精霊使いの所で眠る訳だが、ある1名の精霊使いを除いてであった。



「―……カブトムシ……はんぺん…っ、マジかいな…ぁ―…」



それは今まさに奇妙な寝言を口にしているヒューイその人の事である。毎回ヒューイの寝言は訳が分からない。

しかし、それが本題ではなく…



「そうだ、モニカ。その旅にはラミィも連れてってあげてくれないか」
「……え?」
「女の子の一人旅はやっぱり心配だしな」



…まぁラミィは普通の人に見えないから、結局モニカが一人旅してる様に見えるんだろうけど。


なんて事を口に出さずスレインが考えていると、

少し眠たくなったのか伏し目がちになりながらモニカが不思議そうに首を傾げた。



「……ラミィはスレインと一緒にいるんじゃないの?」



それはモニカからすれば普通の疑問だった。

ラミィはいつもスレインと一緒に居る。
なのに何故スレインはこんな事を言うのだろう、と。



「…ラミィもきっと色んな場所を見てみたいだろうし、ほらっモニカと一緒に居るのも好きみたいだしさ」



少し歯切れが悪くスレインが言葉を返す。

いつものモニカなら彼の様子が違うと気づくだろうが、今のモニカはだいぶ眠りに誘われている為かそれが分からなかった。


だから、



「じゃあスレインはこの旅がおわったらなにをするの?」



眠気から呂律が回らない舌足らずな口調で、そんな問いかけをスレインに投げかけた。



「―…………っ」



僅かに息を飲む声が聞こえ、モニカが重たくなった頭を動かしスレインを見上げると、

淡い笑みを浮かべ何故か泣きそうな彼と目が合った。



「スレイン…?」
「いや、なんでもない。…そうだな俺はー…」



淡い笑顔はそのままなのに、スレインの眉は悲しそうに垂れ下がったままだった。



「……生きてたい、かな」



少しだけ震えた声で呟かれた言葉にモニカが眉をしかめる。



「そんなのぜんていの話じゃない、みんな生きてシオンに勝たなきゃ…いみがないわ」
「あぁ…そうだな、モニカの言う通りだ」



そう一人事の様に呟いたスレインがモニカの頭をくしゃりと撫でた。



「明日も早いんだ。もう寝ときなよ」
「……ん」



さっきから瞼がくっついては離れるのを繰り返していたモニカは、スレインの言葉に素直に頷き瞳を閉じたかと思うとすぐに穏やかな寝息をたて始めた。

眠りについたモニカの髪に一度だけ触れ、スレインは頬杖をついていた腕に顔を埋めた。



「―……その“ぜんてい”が俺には無いんだよ、モニカ」



グレイの体を借りている“俺”


“俺”の体はもう死んで土に還っていて



魂だけが
此処に居る


……シオンを倒す
ただその為だけに


だからこの旅が、
シオンの野望を阻止する事が出来たなら



俺は戻らなければならない
本来居るべき場所に


ピートが、

みんなが居る、


輪廻の輪に



だから、


本当は心の何処かで思ってるんだ、

こんな事望んではいけないのに




『この旅がずっと続けば
いいのに』なんて



(終わりの幸福、幸福の終わり)



『じゃあスレインはこの旅がおわったらなにをするの?』

『…そうだな俺はー…』



みんなと、


モニカと一緒に、



『……生きてたい、かな』



・END・
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もしもこの後このまま
ホムンクルス無しverの
モニカENDなったら

モニカはこの日のスレインの事を思い出して泣いちゃうんじゃないかなぁなんて、

『生きてたい』とスレインが本音を溢したのに、それに気づけなかったから。


タイトルは某漫画の小説化したシリーズの最終巻タイトルよりお借りしました。
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