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・狂愛
・死ネタ



上記2つを含みます。
嫌な予感がする方はここでリターンして下さい。

(empty empty)のスレインsideになります。


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俺は好きだって言った。
何度も彼女に言った。


俺は強く抱きしめた。
何度も彼女を抱きしめた。


俺はずっと一緒に居ると言った。
何度も何度も一緒に居るって、そう言った。


好きなのも本当で、
抱きしめたかったのも事実だ、


だけど、
俺は…

ずっと一緒に居ると
君にずっと



嘘を吐いていた。



(It is you that it is out of order? Curve is,)



シオンとの戦いが終わった。
取り返した魂の壺と記憶のルビーを闇の総本山へ返して来ると言うと、



「…私も一緒に行くわ」



モニカが俺を見上げてベストの端を握った。

けど、
俺はそれを断った…



「すぐに戻るから」



また一つ、君に嘘を吐いて。

ラミィにはついて来てもらった。流石にラミィまで置いていったら怪しまれるし、何より最後の言葉を残せる相手が欲しかった。



総本山で壺とルビーを返すと、早速俺とグレイの魂を切り離す儀式が行われた。
ラミィは驚いて反対したけど、俺が自分の意思でこうする事を願ったと話すと渋々口を閉ざした。


ありがとう、そう言うとラミィは俯いたまま首を横に振った。


精霊使い長がグレイの身体から俺と彼の魂を取りだし、俺達の魂を切り離した。
そしてグレイの魂だけを彼の身体へと戻す。

少ししてグレイが目を覚ますと精霊使い長は魂を戻したばかりで本調子ではない筈だから、少し休んでから帰るといいと告げると彼は渋りながらも仕方ないなと呟いて宿へと歩き出した。

何日か前に精霊使い長に頼んでおいた。グレイに身体を返した後、少しだけ足止めしてくれと。

そうしないと俺がラミィに別れを告げて、ラミィがグレイと一緒にみんなの所へ帰れないから。



……輪廻の環の前までラミィと一緒に来た。ここから先は俺一人で行かなければいけない。

ラミィの頭を撫でようとして、その手がすり抜けた。…そうか魂だけだから触れないのか。



「今までありがとう、ラミィ」
『……スレインさん』
「…ラミィには何度も助けてもらったな」
『ラミィ、何もしてあげられてないですよ…?』
「傍に居てくれるだけで有り難い時もあるんだよ」



本当にラミィには感謝しているんだ。君に出会わなければフェザリアン達の計画も知れないまま、モニカにも出会えなかったのかもしれないから。



「なぁラミィ最後に一つ頼み事をしてもいいかな?」
『…はい、ラミィに任せてくださいっ』
「……伝言を頼みたいんだ、モニカに」



俺が彼の身体を通して唯一愛した少女に、



「『約束は守るから』って…こう伝えてくれないか」
『……約束?』
「あぁ、そう言えばきっと伝わるから…」



そして俺は歩き出す。
輪廻の元に。



『スレインさん…!』



ラミィの悲しそうな叫び声を背中で感じながら、俺の魂は輪廻へと還っていった。


―――……


――……


――…


本当はラミィに違う伝言を頼みたかった。



……嘘を吐いててごめん、
俺の事は忘れて、
幸せに生きてくれ



こう伝えたかった。

だが、それをラミィに託すには余りに酷すぎるし、モニカにも残酷過ぎるから。
でも聡明な彼女にならきっと伝わるハズだ。


俺の心は、
俺の想いは、
いつでも君と一緒にあるって。






……そう、
ちゃんと伝わると思っていたのに。俺の一言が君の人生を狂わせてしまうなんて。


――――――――――――――


輪廻の中から俺はずっと見ていた。

モニカは俺の部屋に籠りきりになった。


アネットが気丈に明るく振る舞って声をかけても、


ヒューイが普段とは違って真剣に怒っても、


ビクトルが自身の妻子との別れと重ね合わせて説得しても、


弥生さんが親身になって優しく諭しても、


ミシェールとラミィが純粋に心配して会いたいと伝えても、


モニカは部屋から出なかった。みんなに顔も見せないまま、数日が過ぎた。

彼女は俺が使っていたベッドに横になり、思い出した様に俺の名前を口にしては涙を流した。



寂しいって、
会いたいって、
帰って来てって、



そんな言葉を呟きながら。


……胸が締めつけられる思いだった。

今はまだ俺が居なくなった悲しさから離れられないだけだろうと、そう思っていた。
だから今は辛くてもモニカならきっと乗り越えられると、信じていた。



――――――――――――――



それからモニカはやっと部屋を出た、そして誰にも会わず何故かビブリオストックの図書館に足を運んだ。最上階まで昇りつめた彼女が何を調べたいか分かって俺は自分の目を疑った。


……モニカはホムンクルスの作り方を調べていた。


それからは早かった。
モニカはみんなを避ける様にフェザーアイランドに行って、リナシスから機器や材料を借りた。足りない分はトランスゲートで帝都まで移動して補充して。

そしてモニカはフェザーアイランドのトランスゲートの電源を切ってしまった。
こうなってしまえば連邦に居るみんなが彼女の所まで辿り着くのははほぼ不可能になり、誰にも彼女を止められない。



どうして、そんな事をするんだ


そんな事をしても意味なんて無いのに、

器を造ったところで俺はモニカの所には帰れないのに、


……何で気づかないんだ?



――――――――――――――



……あれから何日が過ぎたんだろう。

モニカは眠ったまま動かない俺のホムンクルスに寄り添う様にして横になっていた。ホムンクルスが出来てからずっと、一時も離れようとしなかった。

眠っては起きて、ホムンクルスに名前を呼びかけて。髪を撫でたり腕に抱き着いたり、何の返事も反応も無いのに。


流れる涙を拭いもせずにモニカは止めなかった。
そしてまた泣き疲れて眠る。

それの繰り返し。


届かないと知っているのに何度叫んだだろう、


俺は其処に戻れないんだと
そんな事してても意味はないんだと。


それ以上そんな事をしていたらモニカが死んでしまうと。



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……モニカはまともに動けなくなった。

浅い眠りを繰り返し、起きている時間も短くなった。身動ぎする事もままならず、指だけが微かに動くだけで。

俺の名前を呼ぶ声も、小さくて掠れてて聞き取る事が難しくなっていた。


それでも思い出した様に呟くんだ。俺の名前を何度も何度も、まるでその言葉しか知らないみたいに。



―……そして遂に、
俺の名前を呼ぶ声も消えた。


モニカの身体は眠りについたまま、
二度と目を覚まさなくなった。



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―――――


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―――



――






……



輪廻の環の入り口。ずっと見守っていた彼女が其処に居た。

あの時と…闇の精霊使いの総本山に行く前に見た彼女と変わらない姿だった。
最期まで見ていた彼女の姿とは似ても似つかない、その事実すら彼の心を締めつける。



「―……モニカ」



名前を呼ばれた彼女、モニカが振り返る。



「―……っ」



自分の名前を呼んだ人物を見てモニカは息を飲む。モニカは走り出した、瞳から溢れ出す涙もそのままに。
そして、此方を見たまま立ち尽くす彼の胸に飛び込んだ。



「……スレイン…っ」



小柄な体、

華奢な腕、


スレインが腕を回し、モニカを抱きしめる。そして悲しみからか無意識の内に力が入る。


どれも変わらないのにただ一つ、変わっていた。

肌に触れると安心するあの優しい体温が欠片もなかった。



「スレイン、ずっと…ずっと会いたかったの……やっと会えた」
「…モニカ」



モニカの言葉を遮る様にスレインが口を開いた、自分でも分かるぐらい震えた声で。



「……ごめん」



スレインはそれだけをどうにか呟いて、モニカを強く抱きしめた。モニカの頬にスレインの涙が降り注いでいく。



「…こうしてまた会えたのに、どうして謝るの?」
「ごめん、モニカ…ごめん」



気づかないのか?
どうして俺が謝っているのか、



「俺のせいで…俺が、あんな約束をしてしまったせいで……君を…死なせてしまった」



いっそ俺を責めてくれればいいのに。


貴方のせいで私は死んでしまったんだって、

あんな約束出来ないんなら交わさないでって、


だけど君は微笑む。優しく、全てを受け入れて許すみたいに。



「……そんな事どうでもいいわ、だってスレインに会えたんだもの」



スレインが唇を噛み締めた。
涙で霞む瞳に写っているのは、光の消えた瞳で微笑むモニカの姿だった。


モニカをこうしてしまったのは、他でもないスレイン自身。

彼との約束を守る長い日々の中で、彼女の心は歪んでしまった。

歪んだ心に残っているのは


彼との約束と、

彼への思いだけ。


モニカを抱きしめながら、スレインはまた一筋涙を溢した。

今度の涙は悲しみから溢れたものではない、それは全く正反対の思い。


…嬉しい。


どうしようもない嬉しさから溢れた涙だと彼は分かっていた。


……どうして嬉しい?

いや、逆に何故嬉しくない?


彼女が歪んでしまってさえ約束を守ってくれたのに、

彼女とこんなにも早く再会できたのに、



「……あぁ、そうか…」



スレインの口から溢れた小さなその声はモニカの耳には届かなかった。


だけどそれは今どうでもいい。
彼は理解してしまった。

どうしようもなく許されがたいその事実に。



―………自分も歪んでしまっているという、その事実に。



彼は気づかないだろう、
そして彼女も気づかない、

彼の瞳にも光なんてなかった事に。


・END・
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『empty empty』のスレインサイドの小説になります。

壊れていくモニカをただ見つめる事しか出来なかったスレインも、いつの間にか歪んでいっていたって訳です。


……マジで高那の脳内大丈夫かな?(´・ω・`)


ちなみにタイトルの和訳は
「狂っているのは君?それとも、」
になります。

狂っているのはどっちもなんですけどね←