.



・狂愛
・死ネタ



上記2つを含みます。
嫌な予感がする方はここでリターンして下さい。


―――――――――――――――――――――――――――



彼は好きだって言ってくれた。
何度でも言ってくれた。

彼は強く抱きしめてくれた。
何度も抱きしめてくれた。

彼はずっと一緒に居ると言ってくれた。
何度も何度も一緒に居てくれると言ってくれた。


彼は嘘をつかない人。
そう、1回だって私に嘘なんかつかなかった。


だから…


彼が私を置いて輪廻の輪に還っただなんて

そんな事、信じない。



(empty empty)



浅い眠りから目を覚ました。
…寒い、本能が温もりを求めて手を伸ばす。

そして伸ばした手は何も掴まず、空を切る。


いつもなら私の手をそっと掴んで抱きしめてくれるのに。温かくて大きいその体で私を包み込んでくれるのに。



「……スレイン…」



名前を呼べばいつも微笑んでくれたのに。私の名前を呼んでくれたのに。


貴方は今此処に居ない。



――――――――――――――



シオンとの戦いの後。


彼は魂の壺と記憶のルビーを総本山に持って行ってくるって、そう言って一緒に行くと言った私にすぐ戻るからと笑顔を向けて。

いつもの様にラミィを肩に乗せトランスゲートをくぐって



―……そのまま帰って来なかった。



……いや、正確に言うと帰って来た。


同じ姿、

同じ声、

だけど違う魂の、


本来の彼の体の持ち主であるグレイ・ギルバートが。


そして私達に言った。

スレイン・ウィルダーはもうこの世に居ない、闇の精霊使い長が輪廻の輪に彼の魂を送ったと。


目の前が真っ暗になった気がした。


…“彼”は何を言ってるんだろう、訳が分からない。


スレインが居ない?どうして?そんなハズない、だってスレインは―…


行った時と同じ様に“彼”の肩に座っていたラミィが涙を溢しながら私の元に飛んで来た。

泣きじゃくりながらラミィは話し始めた。

彼と輪廻の輪の前まで一緒に行ったのは私だと、そして別れる前に彼から私宛てに伝言を預かって来たと。その伝言はたった一言、



『約束は守るから』



こう言えば伝わるからと、それだけ言い残したらしい。ラミィには意図が分からないかもしれない、でも私には分かる。


…違う、それだけで充分なの。余計な言葉なんかよりその一言で救われる。


いつも約束していたから。

ずっと一緒居るって、ずっと私の傍に居てくれるって。


ラミィの小さな手が私の頬に触れる、泣かないでくださいという言葉と共に。知らない内に涙が溢れ落ちていたみたい。
きっとラミィは悲しくて泣いてるんだと考えてるんだろう。


だけど違うの、それは間違い。私は今…嬉しくて泣いているの。

スレインが約束を守ると言ってくれたから。だってスレインは―…一度だって嘘をついた事なんかないんだから。


きっと“彼”の体から離れなければいけない事情があったんだ、そして私達の元に帰って来れない事情も。

他の誰の言葉より彼の言葉を信じられる。それが目の前の人物が語る言葉でも。


ほら、もう“彼”の声なんて聞こえない。





……それから私はずっと一人で彼の部屋で彼が帰って来るのを待ち続けた。

彼が居ない一分一秒がひどくもどかしくて。一人で居る事に慣れていたハズなのに、いつの間にか彼の存在が私の心を強く支配していた。

どれだけ時間が経っただろう、ある時にふと気づいたのだ。


彼が帰って来た時に“器”が無ければ困ってしまうのではないだろうか。私の体を器にしても構わない、けれどそうしたら彼に触れてもらえない。
どうせなら人の形をしたものがいい。

何かいいものは無いだろうかと思案する私の脳裏にかつての敵の顔が掠めた。世界から太陽の光を奪い、父とかつての彼を死に追いやった人物…シオンの。


そうだ、シオンと同じ様にすればいい。シオンが使っていたホムンクルスを、私も作ればいい。

この部屋に彼の髪の一本ぐらい落ちているハズ。
だから、ソレを元にホムンクルスを作ればきっと彼のいい“器”になる。


ビブリオストックの図書館で作り方を調べあげた。流石にホムンクルスの作り方が載ってある本は最上階にあったから手間取ってしまったけど、彼の為なら惜しいと感じない。

作り方は分かったのだけれど、ホムンクルスの元になる材料やそれを造り上げる機器が手元になかった。

最初にまず浮かんだのがビクトルの研究室だった。でも会いたくなかった、ビクトルにも仲間達にも。
みんな口を揃えて言ってくるから、

もう彼は居ないんだって。
まるで私を諭す様に。

みんなには分からないんだわ、彼が残した言葉もその意味も。


次に浮かんだのはフェザーアイランドに残された仮設3号機。

最低限の機器は置いてあったハズだし、4号機に暮らしているリナシスの所になら材料も少しはあるかもしれない。足りない分は自分で手に入れればいい。


まずリナシスに会いに行って実験がしたいからと3号機の鍵と材料を借りた。足りなかった分は帝都に足を運んで買ってきた。

そうして準備が整うと、私はフェザーアイランド側のトランスゲートの主電源を切った。
リナシスはトランスゲートを使わないから、主電源が切れてる事に気づかない。
みんなはこのトランスゲートしか此方への移動方法は無い。



…コレで誰にも邪魔されない。



――――――――――――――


そう、そして出来たのが私の隣に横たわる彼と瓜二つのホムンクルス。今日も彼は来てくれない。
このホムンクルスも動かない。

少し寝返りをうってホムンクルスの頬を撫でる。…人肌より少し冷たいそれは、彼の暖かさには似ても似つかない。


早く貴方に会いたいのに。どうして帰って来てくれないの?

……そんなの分かってる、貴方は優しいから。私達を巻き込まない様にと一人で頑張ってるんでしょう?

だからまだ私の所に帰って来れない。


いつ貴方が帰って来ても大丈夫なように、私は此処から離れないでいよう。そしていつか目を覚ますと貴方が微笑んでくれているハズだから。



――――――――――――――



そして、また目を覚ます。
今日も彼は帰ってこない、彼は私にふれてくれない。


…また眠りが浅くなった。
眠る事にも体力は使うんだって前にダレかが言ってた気がする。

そういえばご飯も食べてないしベッドから降りてもいない。ずっと横になってるだけだ。


いつからご飯を食べなくなったんだろう。

いつからこうして眠るだけになったんだろう。


……思いだせない。ここに来てからどれだけ時間がたったのかも分からない。


彼のホムンクルスは眠ったまま。
わたしも横になったまま。


最近ずっと彼のホムンクルスに寄りそっている。
あの彼のサラサラな髪のかんかくを味わおうと手をのばそうとしたけど、うでが重たくてうごかせない。ゆびをすこし動かすだけでせいいっぱい。

どうしよう、これじゃあ彼が帰ってきた時にだきつけない。



「………ス、レ……イ、ン…」



声もかすれてしまって上手くだせない。あぁこんな声じゃかれにわらわれてしまう。


……あれ、なんだか
まぶたがすごくおもたい。

さっきまでねむってたのに、きゅうにどうしたんだろう。
ここのところずっとこんなことなかったのに…


つぎにめがさめたとき、
かれがいてくれるかもしれないから、

いまはねむってしまおうか。



はやく、あいたいよ
すれいん…



――――――――


―――――――


――――――


―――――


――――



―――



――






……



………モニカが目が覚ますと、其処は仮設3号機の中ではなかった。
明るくも暗くもない。寒くも暖かくもない。何もない空間。



「―……モニカ」



背後で自分の名前を呼ぶ声がした。
モニカは急いで振り返る、その声に覚えがあるから。いや、待ち望んでいた声だから。


其処に立っていたのは、戦いの後闇の精霊使いの総本山に行った時と何一つ変わらない彼だった。



「―……っ」



思わず息を飲んでモニカは走り出した、瞳から溢れ出す涙もそのままに。そして、此方を見たまま立ち尽くす彼の胸に飛び込んだ。



「……スレイン…っ」



モニカはスレインの背中に腕を回して強く抱きしめた。懐かしくて愛おしい彼の温もりをその身体で確かめる様に、でもかつての温もりはなかった。
でも、そんな事は今はいい。彼が居てくれるならそれだけで良いのだから。

スレインの腕がモニカの背中に回され、力を込められる。彼の力強い腕を感じて、また一筋涙が溢れた。



「スレイン、ずっと…ずっと会いたかったの……やっと会えた」
「…モニカ」



モニカが心の内を言葉にするが、スレインがそれを遮った。幾分か震える声で。



「……ごめん」



彼はそれだけをどうにか呟いて、また強くモニカを抱きしめた。
モニカの頬に、彼の涙が降り注ぐ。



「…こうしてまた会えたのに、どうして謝るの?」
「ごめん、モニカ…ごめん」



モニカが見上げると、そこにあったのは眉をひそめ瞳に悲しみの色を広げる彼の顔があった。



「俺のせいで…俺が、あんな約束をしてしまったせいで……君を…死なせてしまった」



彼の言葉にモニカは首を傾げ、そして微笑んだ。



「……そんな事どうでもいいわ、だってスレインに会えたんだもの」



スレインが唇を噛み締める。

彼が見下ろすモニカの瞳には以前の光は無く、口元だけがあの頃の様に微笑んでいた。それは今までスレインが見た事のない歪な微笑み。


それにモニカ自身は気づかない。いや、もう今のモニカにはスレインが何故泣いているのかも分からない。



彼が帰って来ると信じ続けた日々の中で、

彼女の心の中は、

からっぽになってしまったから。


からっぽな心に残ったのは、
まっすぐ過ぎる彼への想い、ただそれだけ。

あぁ青年の涙のその意味は少女には永遠に届かない。


・END・
―――――――――――――――――――――――――――
分かりにくいでしょうがスレインとモニカが再会した場所は輪廻の中です。

前回アップした小説と違って今度はモニカが狂っております。
最近高那こんなんばっかりだなぁ…(´・ω・`)


……あれ、もしかして精神病んでる?←