.



・裏切り
・死ネタ
・狂愛

この上記3つを含みます。
嫌な予感がする方はここでリターンして下さい。



―――――――――――――――――――――――――――


闘気を抑えてリングウェポンを元の指輪に戻す。
自然と口から溜め息が溢れ、どっと疲労感がのしかかってくる。

何気なく見た自分の両の掌は真っ赤に染まっていて。所々では固まり始めていてどす黒い赤色になっていた。

恐らく自身の体も赤く染まっているのだろう。



ーーかつての仲間達の血で。



「……スレイン」



名前を呼ばれ振り返るとソコには今の自分と同じ様に返り血で赤く染まった男が居た。
彼の手には元の黄金色が分からないくらいに赤く染まった両剣が握られたままだった。



「…もう、終わったのか?」
「無論だ。お前さえ居なければあんな連中苦戦などしない」



そこまで買われていたのか、知らなかった。まぁ実際あのメンバーの中で一番強いのは俺だったけど…。

と言うか、いつまでも剣を持たれたままだと今までの条件反射で俺のリングウェポンまで反応しそうだ。かつての宿敵を前にしているせいなんだが。



「いい加減武器をしまってくれないか?シオン」
「……何故?」
「いや、何故も何もー…」



俺の足下を剣で指し示しながらシオンが言う。



「そこのフェザリアン、まだ生きているだろう?」



自分の足下に目線を落とす、ソコには一人の少女が踞る様にして倒れていた。彼女の名前はモニカ、人間の父とフェザリアンの母を持つハーフフェザリアン。


かつての俺の仲間。



「そうだな、まだ生きてるな」



知ってるに決まってる、だって俺が倒したんだから。

つい先ほど剣を交えた時に隙を見せた彼女の鳩尾にバスターソードの柄の部分を思いっきり突き上げた。
彼女からしたらほんの少しの隙だったんだろうけど、それを見逃す俺じゃない。

ノーガードだったモニカは声にならない悲鳴を上げて血を少しだけ吐いた。そのまま膝から崩れ落ちる様にして倒れて…今に至る。



「何故止めを刺さない?」
「何で…だろう、な」
「誤魔化すな、お前が殺さないなら私がー…」
「シオンが」



分かりきってるシオンの言葉を敢えて遮った。シオンがこちらを一瞬睨んだ気がするけど気にしたら負けだ。



「…シオンが“彼女”を傍に置いているのと同じじゃないかな」
「……………。」



1度見ただけだから断言までは出来ないけど。シオンと俺は似ているから。



「……好きにしろ」
「あぁ、ありがとう」



俺が返事をする頃にはもう背を向けてシオンは歩き出していた。多分グレイヴと合流して城に帰るんだろう。

…俺は自力で帰って来いって事か?まぁ別に良いけど。


しゃがみ込んでモニカの指からリングウェポンを外す、細くてしなやかなモニカの…俺よりも一回り以上小さな手指。



「……………ぅ、っ」



指を動かしたせいで違和感を感じたんだろうか、モニカが苦しそうに身動ぎし始めた。


瞼が微かに開いて、覚醒しきってないモニカの瞳が俺を写す。

血に汚れた俺の姿を。



「………ス、レイ…ン……」



掠れた声で弱々しく俺の名を呟いたかと思うと、モニカの瞳に意志が戻った。



「……スレイン…っ」
「…もう目が覚めたんだな」
「うるさ、い……っ!!」



急に体勢を立て直そうとしたモニカは途中で動きが鈍くなり、胸を抱える様にしてまた踞ってしまった。

そりゃそうだろう、俺が思いっきり力を込めたんだから骨が無事な訳がない。



「無理すると余計痛むぞ」



自分で攻撃しておいて言う台詞ではないけど。そんな事を思いながらモニカに手を伸ばすとパンッと甲高い音を立て、手を強く叩き返された。



「……触らないで」



鋭い眼光を向けてくる彼女に俺はどんな顔を返しているんだろう。彼女の瞳に一瞬だけ恐怖の色が見えた。

それを振り切る様に目を瞑り、再び俺を睨み付けた彼女の目には激しい怒りと憎しみの色しかなかった。



「みんなを、返してよ……裏切り者」



裏切り者?


あぁその通りだ、俺はみんなを裏切った。だけど違うだろ?



「……先に裏切ったのはそっちじゃないか」



さっきよりも早く動いた俺の手が、無防備だったモニカの首を掴んでそのまま力を込める。
とっさにモニカは両手で俺の手を引き剥がそうとする。

でも彼女の力なんかじゃ俺の手はびくともしない。



「闇の精霊使いが俺は死んでるんだって、シオンを倒す為だけに生き延びてるって、世界が元に戻れば死ぬんだって、そう言われた時どうして何も言ってくれなかったんだ?世界が助かるなら俺の命なんてどうでもいいのか?」


悲しいとか、
辛いとか、
嫌だとか、

色んな感情が爆発して頭の中はごちゃごちゃ五月蝿いのに、


その感情を言葉にしている俺の声はえらく無感情に聞こえた。



「みんなは天秤にかけたんだよな?世界か俺かって、それで世界を取ったんだろ……コレを裏切りって言わないで何て言うんだ?なぁモニカ、答えてくれよ…」



もちろん返事なんて来る訳がない。と言うか俺の言葉は届いてすらいないのかもしれない。



「……みんなが世界を選んだみたいに、俺は俺を選んだ」
「――………っ、…ぁ……」



意識も朦朧としてるんじゃないだろうか。


俺の手を掴んでいた手が力を失い始めて、俺の手にしがみつくので精一杯になっていた。

彼女の喉が酸素を求めてビクリと震えだし、張り付いた様な掠れた声を溢しながら必死に呼吸をしようとする。



「精霊使いが自身を殺してまで影で支えていないと保てないこんな世界、壊れてしまえばいいんだ。だから俺はシオンと手を組んだんだ、俺には世界も何もいらない、いや違うな…」



それを味わう俺の手はきっと喜んでいるんだろう。直に彼女の生死を感じているんだから。



「―……俺にはモニカが居ればそれだけでいいんだ」



彼女の首にかけていた手を外すと、咳き込みながら彼女は呼吸を繰り返した。


必死に生きようとしている彼女を見ているだけで胸が熱くなる。あぁ、たまらなく愛しい。



「好きなんだよ、モニカの事が。初めて会った時からずっと好きだった」
「………な、にを…いって…」



止まらない咳を堪えながら、モニカがそれだけを呟いた。俺を見上げる瞳にはさっきまでの怒りが少し消え、代わりに戸惑いの色が増えていた。



「だから俺の為に生きてよ、世界を救う為の旅なんて止めて…俺だけの為に」



俺の言葉で戸惑いの色が困惑に変わって。

意味を完全に理解したんだろう、そしてそれは次第に拒絶の色になっていった。


モニカが何をしようと考えたのか、行動を起こす前に気づいた。

肺に空気を送ろうと開きっぱなしだった彼女の口に、指を差し入れる。


それと前後して舌を噛みきろうとした歯が俺の指を加減もせずに噛みしめた。



「―……っ…」
「駄目だよ、そんな事しちゃ」



彼女は俺を睨み付けながら、抵抗するみたいに口内に残る指を歯を立て続けていた。


いっそこのまま噛み切ってくれてもいいのに、

そんな馬鹿みたいな考えが脳裏に浮かんで消えた。



「……モニカが死んだらポーニア村の人達も全員死ぬ、こう言ってもまだ死のうとする?」



モニカの瞳が驚愕で見開いて、俺の指から口を離した。



「………どういう事…?」
「シオンは今ジェームズ派の全権を握っている、だから俺はシオンに頼んだんだ『ポーニア村の事は全て俺に任せてくれないか』って。シオンはそれを承諾してくれた、だからポーニア村は俺の手の中って事だよ…」



ほら、これで聡明な君なら分かるだろう?

モニカが死んだらポーニア村の人達も死ぬ。

モニカが死ななければポーニア村の人達も死なない。


モニカにポーニア村の人達全員の命がかかってるんだよ?



「………あ…あぁ……っ」



モニカの瞳にはもう絶望の色しか残っていなかった。
そこから溢れ出る雫はとても綺麗で、気づけば俺は手を伸ばしてその雫を拭っていた。



「モニカは優しいから、村のみんなを…ミシェールを死なす様な事は出来ないもんな」



止まらない雫が、俺の手に染み付いていたあいつらの血を少しずつ洗い流していく。

流れたそれは、モニカの頬を伝って地面にポタリポタリと垂れていった。



「コレからは俺の言う事ちゃんと聞いてくれるよな?」



俺の言葉に首を振ろうとして、頭を抱えながらモニカは僅かにだけど首を縦に動かした。



「……ありがとう、モニカ…」



そう言って彼女を抱きしめる。


あぁ、やっと
彼女が俺のものになったんだ。

もう世界なんてどうなったっていい。世界が滅ぼうが、人類が生き絶えようが関係ない。


俺とモニカが生きてさえいればそれだけで構わない。



「――……………て…」



抱きしめた彼女の嗚咽混じりの声が微かに耳に届いた。



「―……わ、たしを…ころして……」



彼女はただ「殺して」と、

それだけを繰り返していた。


……どうしてそんな悲しい事を言うんだ?



「駄目だよ、モニカ。俺にはそんな事出来ない…俺はモニカの事を愛しているんだ。だから、そんな事言わないでくれ」



俺はこんなにも幸せなのに。
どうして伝わらないんだ?

この気持ちが届く様にと、俺はモニカを強く抱きしめた。


それでも止まらない声を聞きながら、俺はモニカの温もりを感じ続けた。



(翔べない鳥には歪んだ鳥籠を)



出口は開いてるんだ、いつでも逃げようと思えば逃げられるよ?

でもそれが出来ないんだよな?だって君は優しすぎるから。


・END・


―――――――――――――――――――――――――――
スレインがシオンに言った「彼女」はWリターンで出てきた
「グローリア」の事です。恋人同士だと言ってたので存在だけ出してみました。

この話の続きを書こうものなら裏に発展しそうなので、この1話で終わらせときます←


みんなごめんよ(´;ω;`)