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記憶を見る。
深い眠りに陥ると希にだが、記憶を見るのだ。
【シオンに殺される】前の自分の記憶を。
まるで今の自分が前の記憶の中に飛び込んでしまったかの様に。
そして今日も…
(さらば、あの日々の面影)
総本山へと下る入り口から離れた小高い丘に立つ、年老いた1本の大木。
その木に一人の男が歩み寄り、自分の背丈の何倍も高いそれを見上げた。
「おーい、居るんだろう?」
もちろん木が返事をする訳がないのだが、男は声をかけるのを止めない。
「下りてこいよースレイン!」
少し間があって変化が起きた。風も吹いていないのに枝が揺れ、何かが枝から降ってきたのだ。
それは難なく男の前で着地すると、すっと立ち上がってみせた。
男の前に立つのは、男より少し若い白髪の青年。
「……何の用件だ、アレン」
「誰も居ないんだし固くなるなよ、俺は“ダークロード”じゃなくて“スレイン”に用がある」
「……そうか」
そこまで答えるとスレインと呼ばれた青年は、安心した様にため息を吐いて髪を少しかき上げた。
「助かるよピート、やっぱりかたっくるしいのは苦手だ」
ピートと呼ばれた男が小さく笑う。
「まぁ俺も敬語とか苦手だから助かるよ、気さくなロードで」
「他のロードの方々は違うんだからな、気をつけろよ」
「そこはちゃんと弁えます、ご心配入りませんよ我等がダークロード様」
従者がする様に胸に手を当てピートが頭を垂れると、少ししてからスレインが吹き出した。
「似合わないな、ピート」
「……だろ?自分が一番よく分かってるよ」
頭を上げたピートが頬をかく。彼のその陽気さと優しさがスレインには有り難かった。
“ダークロード”としてではなく“スレイン”と接してくれるのは総本山の中ではピートただ一人だから。
「あ、そういえば俺に何の用なんだ?」
ふと彼が此処に来た理由を思い出したスレインが尋ねると、ピートも用があるのを忘れていたのか手を叩いた。
「そうそう、お前と手合わせしたくて此処に来たんだ」
「手合わせって…またか?」
腰に手を当てスレインが呆れた様に言うと、ピートは両手を合わせて頭を下げた。
「頼むよもう1回だけ!な、いいだろ?」
「するのは良いんだけどさ…お前本気出さないじゃないか」
ピートという男は、ローランドで知らない者は居ない程強い剣士だった。
だがそれと同時に仲間思いな男でもあり、仲間の為に労を惜しまないが仲間に本気で手が出せないらしい。
「するのは構わないんだろ?じゃあしよう、ほら」
嬉しそうに頭を上げるとピートは羽織っていたマントの中から2本の木刀を取りだし、その内の1本をスレインに投げ渡した。
投げられた木刀を受け止め、スレインが苦笑を溢しながらマントを脱ぐ。
「…準備いいな」
「よく言うだろ?備え有れば憂いなしってさ」
そう答えながらピートもマントを脱ぎ、木刀を持ち直す。
剣を構えながらスレインがふと思いついた事を言ってみた。
「なぁ、俺を敵とか仇だとか思えないのか?」
「スレインを?…中々難しい注文つけるな」
「俺を仲間だと思ってるから加減するんだろ?だったら敵かなんかだと思ってくれたら本気になるかなってさ」
敵ねぇ…そう小さく呟いて頭を捻っていたピートは突然スレインを指差して声を張った。
「モニカだ!」
「は?」
「モニカ!うちの可愛い一人娘だよ、前に話しただろ?」
「あぁ…覚えてるよ、けどその子がどうした?」
「お前をモニカと結婚しようと俺に決闘を挑みに来た輩だと思えばいけるかもしれない!」
「お、おい…そんなのでー…」
大丈夫なのか、と聞こうとしたスレインの声が止まった。
ピートの目が変わったから。
殺気すら感じそうな雰囲気を醸し出し、両手に握った木刀をスレインに向けて構えていた。
どこまで親バカなんだと内心呆れながらもスレインは1度目を瞑り、小さく息を吐く。そして目を開けた時には意識を切り替えていた。
互いに少しの間、様子を伺い合う。
そして一陣の風が吹いた時に、二人同時に動いた。
…………結果から言えば、またスレインが勝った。
今までの手合わせとは違い、ギリギリの勝利ではあったのだが最後の最後にまたピートが僅かにだが加減してしまったのだ。
しかし逆に言えばあの時ピートが手加減しなければ、どうなったか分からない。
木刀を投げ捨て、二人して地面に寝ころがる。ピートが伸びをして口を開いた。
「あー!やっぱり強いなースレインは」
「…今回のは本当に危なかったさ、負けるかもって思ったし」
「……うーん、仕方ないっ」
ピートがいきなり起き上がったかと思うと、寝ころがったままのスレインの手を両手で握りしめて悔しそうに呟いた。
「モニカを…幸せにしてやってくれ…っ」
「…はぁっ!?」
スレインが慌てて起き上がると、ピートがうんうん頷きながら続ける。
「お前にならモニカを任せられる…かもしれないな、俺より強いし良いやつだし」
「ちょっと待て!いつからそんな話になった!?」
「え?だってお前がモニカと結婚しようと俺に決闘を挑みに来た輩だって言うから…」
「思えっては言ったけど実際は違うだろ!……って言うか、お前の娘って何歳だった?」
握っていた手を離しピートが顎に手を添えて少し考え、そして答えを出した。
「俺が家を出てから2年経つから今は6歳」
呆れ果てたスレインが頭を抱える。
「……阿呆かよお前は…」
「なんだ?うちの娘が可愛くないとでも言うのか!?」
「見た事ないのに分かるか!」
「言ったな!ルーミカに似てとんでもなく可愛いんだからなっ!ちょっとでも可愛いと思ったら責任とれよ!?約束だからな!!」
「あー分かったよ!奇跡的に出会う事があって、仮にちょっとでも可愛いと思ったら責任とってやる!約束してやるよ!!」
そこまでお互いに言い合って、不意に沈黙が訪れた。
そして二人同時に吹き出し、笑いながらまた寝ころがる。
「本当に親バカだな、お前は」
「お前も子供持てば分かるよ、きっとな」
分かってたまるかよ、なんて呟いてスレインは空を仰いだ…
―――――
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……気がついたら目の間に広がるのは丘から見える空、ではなく見慣れた部屋の天井だった。
カーテンの隙間から差す淡い光が早朝である事を告げる。
普段起きない時間だからだろう、枕元に猫の様に丸まっているラミィはまだ幸せそうに寝息をたてていた。
ラミィを起こさない様にとゆっくり起き上がり、スレインは今まで見ていた夢の事を思い返し呟いていた。
「……約束、か…」
――――――――――――――
スレインがモニカとラミィを連れて総本山に来たのは昼過ぎの事だった。
「お父さんに会いたいって言うからお墓参りかと思ってたんだけど…」
『総本山にもこんな所があったんですねぇ〜』
そう、昼食を終えた後にスレインがモニカに声をかけたのだ。
一緒にピートに挨拶しに行かないか、と。
今3人が居るのは総本山の使い人達が作った墓地ではなく、総本山へと下る入り口から離れた小高い丘に立つ年老いた1本の大木の足元だった。
「此処は俺とピートがよく一緒にいた場所だったから…墓の方じゃなくて此方の方に居る気がするんだよな」
そう言ってスレインはあの頃からあまり変わらない年老いた木を見上げた。モニカとラミィもつられて見上げる。
ラミィにとっては、なんてことのない木でしかない。だがモニカにとっては特別だった、今は亡き父とスレインの思い出の木なのだから。
「……久しぶりだな、ピート」
視線を下ろしたスレインが口を開いた。スレインの視線は真っ直ぐ正面を見つめている、恐らくそれはソコにピートが居る様に話しているからだろう。
「来れなくて悪かった、色々あって記憶も忘れちゃうし世界も救わなきゃで忙しくってさ」
困った様に笑っていたスレインが、不意に真剣な目をした。そして不意に隣に居たモニカの肩を抱いた。
「……なぁピート、約束覚えてるか?随分遅くなったけどさ…俺、ちゃんと守るからさ」
モニカとラミィが揃って首を傾げる。少し頬を赤くしたモニカがスレインを見上げた。
「…何の話をしていたの?約束って、何をお父さんと約束したの?」
「それはぁー…」
『それは〜?』
勿体ぶるスレインにラミィが問いかけると、急にスレインは二人に背を向けて走り出した。そして振り返って悪戯に成功した子供の様にニカッと笑った。
「俺とピートの秘密だよ!」
「ちょっとスレイン!」
『ズルいですよぉ〜っ』
どんどん離れていくスレインの背を追ってモニカも走り出した。ラミィはモニカにくっつく様にして飛んでいる。
その二人を見てスレインが前を向いて駆け出して…
『モニカを…幸せにしてやってくれよな』
思わず足を止めて間髪おかずに振り返った。
ソコに居るのは、スレインの様子に不思議そうな顔をして足を止めたモニカと彼女の肩に腰を下ろしたラミィだけ。
その二人だけだった。
“生きている”者は。
モニカの肩の向こうに人影が見えた。
それは“あの頃”のままのピートの姿だった。その体が風に吹かれ煙の様に揺らいでところを除けば、何一つ変わらない。
『お前になら任せられるよ、だからモニカの事…頼む』
スレインが口を開く前にそれだけ呟くと、ピートは満足そうに微笑んで風に消えていった。
「……言いたい事だけ言って消えるなよな」
二人に聞こえない様に小さい声でぼやいて、スレインはふっと微笑んだ。
「任せろ、親友。誰よりも幸せにしてやるよ」
また小さな声で囁かれたその言葉は一陣の風に吹かれて溶けていった。
・END・
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スレインの捏造過去と捏造ピートさん(笑)
イメージとして普段はわりと真面目なのに家族(主に娘)の事になるとデレデレになる感じ←
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