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心地よい気だるさと腕に感じる柔らかい感触をふと思い出し、半分眠ったままの脳を無理矢理起こして瞼を開ける。

目の前で静かに寝息を立てて眠る愛しい彼女は一糸まとわぬ姿で、シーツにくるまっていた。
シーツの隙間に見える胸元に咲くいくつかの紅い華に気づいて、いくら露出の少ない服を着ているからってつけ過ぎたかな?なんて小さな罪悪感が胸をよぎる。

でも俺だって今まで頑張って我慢してきたんだし、ちょっとぐらい羽目を外したって文句言われない…訳にはいかないか。


彼女と付き合って早数年、俺は大人として少女だった彼女に手を出さず健全なお付き合いをしてきた。そして昨日、遂に一線を越えるに至った訳で。



……うん、思い返してみると結構ムリをさせてしまった様な気がする、というかムリをさせましたすみません。



なんてちょっと反省しながら、せっかくだしと腕の中で眠る彼女の顔を覗き込んでみた。

出会った頃は『可愛い』という印象が強かったけど数年経った今では『綺麗』と言った方が正しいんだろう。



見る者を惹き付ける端整な顔立ちも、


キチンとした二重瞼も長く伸びた睫毛も、


寝息を立てている薄く開いた薄桃色の唇も、



全てが俺のもの…だなんて言ってしまったら怒られるかな?
いや、怒られてもいいから言ってしまいたい。そうして彼女に気がある奴らに牽制をかけたい。

彼女自身に自覚無しなのが辛いんだよ、人気があるのにそれに全く気づかないのが。
付き合った当初からそれは変わらない。

彼女は自分に向けられる好意には鈍感なのだ。

それでどれだけ苦労した事か…



「……ちょっとは気づけよな」



なんて、
思わず出てしまった声に、



「――……ぅん…」



彼女の眉がぴくりと動いた。

ヤバい、起こしちゃったか?
身構えてしまう俺を他所に、彼女は首を少しだけ動かしまた静かに寝息を立て始めた。


…なんだ、まだ眠ってるのか。


ホッとして胸を撫で下ろしていると寝心地が悪かったのか彼女が少し身動いで、



「―……ぃ、っ」



痛そうに眉をしかめて今度こそ目を開けてしまった。
まだ頭が覚醒していないのだろう、彼女の寝ぼけ眼が俺を見つめる。じっと見つめられる事数秒、やっと頭も覚めたのか途端に面白いぐらい顔を真っ赤にしてシーツで顔を隠した。


いやいや顔真っ赤なのもう見ちゃってるから。



「おはよう、モニカ」
「…………おはよう…」



シーツの中からか細い声が答えてくれる。無理矢理にでもシーツを剥ぎ取ってしまおうかなんて考えたが、それはあんまりだから止めておこう。
仕方ないのでシーツ越しにモニカの頭を撫でる。



「……体、キツいんだろ?ゴメンな昨日無茶させて」



そう声をかけるとおずおずとシーツの中から顔の上半分だけが出てきた。



「…キツくないわ」
「嘘言うなよ、さっき痛そうな顔して起きたのは誰だ?」
「…………。」



言い返せないのか無言で睨んでくるモニカ。頬が赤いままだから怖くない、というか子供っぽくて何か微笑ましい。



「……あーあ、さっきまであんなに可愛く寝てたのにそんな顔で睨むなよな」
「な…っ!」



本心を隠して冗談っぽく笑いながら言うと、シーツから身を乗り出してまた顔を赤くしてモニカが声を上げる。



「まさかずっと見てたの!?」
「ずっとじゃないさ、俺が起きてモニカが起きるまでの間だけだよ」
「それをずっとって言うんじゃないの!」
「バレちゃったか」



モニカ相手に論破なんて出来るとは思ってなかったけど。何か文句を言いたそうな顔をしているモニカを抱き寄せる。

体がちょっと強ばってるのは痛かったからか、それとも恥ずかしいからか。痛かったなら申し訳ないけど。



「……俺以外の奴にあんな顔見せるなよ?」



とりあえずコレだけは伝えたかった、起きたら伝えなきゃいけないと思ってたんだ、絶対。



「あんな顔って…?」
「無防備な寝顔とか、かな?」
「……そんなの、アナタ以外に見せる訳ないでしょ…バカ」
「―……!!」



ちょっ今のっ
胸にキュンッてきたぞ…!



「…スレイン?」
「今の「…バカ」って言い方可愛かった…っモニカもう一回、もう一回言ってくれ!」
「い、イヤよ!それより、もう起きないと朝ご飯食べれなくなるわよ…」



そう言って、俺の腕を振りほどいて起き上がろうとしたモニカの腕を掴む。



「……もう少し寝てようよ、一食抜くぐらい平気だろ?それに―…」
「…それに?」
「もう少しだけで良いからモニカと二人で居たい」



自分でも言ってて恥ずかしかったが聞いてたモニカも恥ずかしかったみたいで、また少し頬が赤くなる。そして黙ったまま俺の胸に顔を埋める様にしてベッドに横になった。



「…ありがとう」
「……体が、ちょっとキツいだけだから」



そんな返事を聞きながら、モニカを抱きしめる。彼女の存在を確かめながら大きく息を吸い込む。


モニカの匂いがする。
隣に居るから当たり前なんだけど。
こんな当たり前の事が幸せで堪らない。



……なんて事を考えてる内に俺の意識は現実世界からシャットアウトして、夢の世界へと足を踏み入れていた。



(とある日の朝)



たまにはこんな朝を迎えたって悪くないよな?


・END・
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遂に書いちゃいましたよ朝チュン小説\(^o^)/←

クリアから数年…いや、5年後ぐらいだと思ってください(具体的過ぎるw)