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血が舞う。

響き渡るのは悲鳴と怒声。
それに混ざる嘲笑う様な声。


倒れているのは名前も知らない人達、


いや違う、
あれは仲間達だ。

闇の使い人の仲間達。
名前を思い出せない、今の俺には記憶が残っていないから。


また一人倒れた。

その姿を見て息を飲む。



倒れているのは

俺の仲間、

共に旅をして来た、
風の使い人。



『…ヒュー…イ…』



向こうの方でまた悲鳴が上がり、誰かが倒れる。足がそっちに向かう前に悲鳴が続く。

其処に重なる様にして倒れていたのは


赤い髪と赤い服の少女と、
東の国の衣服を身に纏った女性と、
リュックが端に転がっている初老の男、


三人は、
血溜まりの中でピクリとも動かなくて、
もう息をしていない。



『……アネ…ット、…やよい、さん……ビ…ク、トル…』



しゃがみ込んだ時に気づく、
いつも肩に居たハズの妖精の女の子が居ない事に。


辺りを見渡す、そして数歩離れた所に倒れていた姿を見つけて駆け寄る。

手を伸ばすと同時にその体が砕け、空中に散らばっていった。



『…ラ…ミィ……っ』



不意に視線を感じて顔を上げる、と同時に生温い何かが頬を濡らす。


目の前に立っているのは

使い人の仲間達を、旅をして来た仲間達を、切り殺した男。

倒すべき相手。
全ての元凶。


そして、その腕に血塗れで抱かれているのは…



『――………モニカ…っ…!』



未発達な羽も、
小柄で華奢な体も、


全部が血にまみれていて


普段から白い肌は、
もはや青白くさえある。



『可哀想な奴らだ、そうは思わないか?スレイン・ウィルダー』



嘲笑う様に囁いて、腕に抱いていた彼女を奴はごみでも捨てるみたいに投げ捨てる。



『モニカ…っ、シオン……お前ぇ…っ!』



地面に崩れ落ちる前に必死に手を伸ばし、彼女の腕を掴んで抱き寄せた。


……生温い血を流す彼女の体は氷の様に冷たかった。



『私が憎いか?怨めしいか?殺したいか?だが私を恨むのは筋違いじゃないのか…?』
『…ふざけるな!お前がみんなを、モニカを…っ』
『使い人達もそこのフェザリアン達も本当は殺す必要なんかなかったんだぞ?』
『じゃあなんで…!』
『それはお前のせいだよ、スレイン・ウィルダー』



俺のせい…?



『お前が巻き込んだんだ、使い人達も旅の仲間達も。お前さえ居なければ死なずに済んだ』
『………嘘だ…』
『嘘?違うだろう、お前が居たからみんな死んだんだ』
『違う…お前が、お前が居たから……』
『元凶は私だ、認めよう。しかし要因になったのはお前だ、使い人達ならまだしもお前が関わったせいで無関係だった旅の仲間達は死んだんだ』
『……違う、違う…俺は……』
『仲間達を守るどころか死に追いやったんだよ、お前が。自分を助けてくれた恩人を、支えてくれた仲間達を、心から愛した者を』
『―……違う…っ!』



俺は、


みんなを、


みんなが生きる世界を、



守りたかっただけなんだ―…



『お前が居なければ良かったんだよ…』


「……――………イ……」


『俺は…』


「………き、て…―……ン…」


『認めろ、自分が…仲……を、殺……事……』


「―…ね、…スレ…ン……っ」


『…おれ、は……』



「…スレイン!!」
「――………っ、は…っ!」



跳ね上がる様にしてスレインは起き上がった。心臓は跳ね馬の様に暴れ、浅い呼吸を繰り返す内に眠っていた時にかいたであろう冷や汗が滴り落ちる。



「……スレイン」



自分を起こしてくれたであろう少女に名前を呼ばれ、心配そうに顔を覗き込まれる。



「随分うなされてたわよ、大丈夫…?」



宿に備え付けてあった寝間着姿の少女に、さっき夢で見た少女の姿が重なっていく。


血塗れの、

青白い肌の、


命の灯が消えた彼女の姿が、



「…………モニ…カ……、…」



喉元に張り付いた様な掠れた声で名前を呟やき、モニカがそれを理解するよりもスレインの行動の方が早かった。



「…え、ちょっ…と…スレイン……!?」



意識的ではなかった。あぁこれが無意識の行動なのか、とスレインの客観的部分が理解する。

ベッドの側にしゃがみ込んでいたモニカを、気づいたらスレインは強く抱きしめていた。


その小さな体は温かくて、
生きているんだと実感出来る。


彼女も、
彼女を抱きしめている自分も。



「……大丈夫?」



拒絶されるかもしれないと思っていたのに、モニカはスレインを拒む事なく受けとめていた。

スレインは目頭が熱くなるのを感じていた、しかし瞼を強く閉じてそれを堪える。



「………だい、じょうぶ…、だけど…」



カラカラになっていく喉をスレインは必死に震わせて声を出す。そして、モニカの体をまた少し強く抱きしめる。



「―………もう、少し…こうしてても、いい…か?」



一瞬、モニカの体が強ばったのがスレインには伝わってきた。

返事が返って来ず、少しの間沈黙が広がる。
いや、スレインには聞こえていた。

自身の高鳴っている心音が。
それに紛れる自身のではない、すぐ傍に感じるトクントクンと響く少しずつ早くなっている心音も。


不意に、背中に温もりを感じた。いつの間にか背中に回されていたモニカの手がスレインの服を掴んでいた。


「………少しだけよ」


頬に濡れるのが分かった。一筋の涙が頬を伝って落ちる。

分かったから。

何も聞かないでいてくれるモニカの優しさが。


そして、もう一つ分かった事がある。

モニカの存在を確かめる様にまた少し強く抱きしめる。痛いんじゃないかな、なんてそんな事を考えたけど何も言わないでくれた。

心が満たされていくのを感じる。あぁ、きっと俺は―…



(夢みた後で)


分かってしまったんだ、

君が好きだという事を。


・END・
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スレモニというかスレ→モニな感じ、スレインを拒否ってないからスレ→(←)モニな感じ(笑)