旅が終わってから日課になった散歩は連邦の側に佇む湖をぐるりと一週する、気づけばそれが俺とモニカの自然に決まった約束の様なものになっていた。


そして今日もモニカと歩く。

寄り添う合う様に手を握って。


たまにしか手は握らない。だから今日…連邦を出てからモニカの小さな手を握ったらなんで握るの?と目線で問いかけれられた。
頬がちょっと赤くなってたのは見逃さなかったけど。



「今日はちょっと寒いからさ」
「……そう」



素っ気なく返された言葉とは裏腹に俺の手を握り返してくれた。

旅が終わって分かってきた事なんだけど、モニカは時々年相応になる。と言うか子供っぽくなる。
俺にとっては何でもない様な事で怒ったり、子供扱いされると拗ねたり…

そんな所がまた可愛いんだけど、言ったら言ったで機嫌が悪くなるだろうから黙っておこう。


そんな事を考えていたらもう湖の近くの森まで来ていた。
秋から冬へと移り変わろうとしている季節と共に、木々は紅葉の美しい色合いから枯れ荒んだ茶色へと変わり始めていた。

足元も少しずつ枯れて落ち始めた葉っぱで埋め尽くされている、踏みしめる度に渇いた音が響く。



「もう冬が近いんだな」
「まだ秋じゃない?」
「暦上だとそうだけどさ…ほら、落ち葉とか木とか結構茶色っぽくなってきてるだろ?こういうの見ると、あぁ冬が来るんだなって感じちゃうんだよ」
「そうね、もうだいぶ寒いものね」



そう言って重ねた手に少し力が込められたのが分かった。繋いだ手からモニカの温もりを感じる、そう言えば誰かが子供は体温が高いから体が温かいんだって言ってたっけ。

それもモニカに怒られるから口には出さないけど。


不意に目の前に落ち葉がヒラリと1枚舞ってきた、それをもう一方の手で摘まみ取る。

所々を虫に喰われた、いかにも落ち葉って感じの葉っぱだった。



「落ち葉ってさ…寂しいと思わないか?」
「落ち葉が?どうして?」



摘まんだ落ち葉を回してみたりと遊びながらモニカの問いかけに答えた。



「だってさ、この葉っぱにだってうんと小さい新芽の時も大きく育って綺麗な緑色になった時も有ったんだよなーって思ったらさ…なんか寂しいって言うか悲しいって言うか」
「そうね、でもこの葉が地面に落ちていずれその土の栄養になる。そしてソレを木がまた新しい葉を作る為に使う」
「…それが自然の摂理だって分かってるのになぁ」
「……人間と同じね」
「え…?」



意味が理解出来ずにいた内にモニカが俺の方へと空いていた手を伸ばし、持っていた落ち葉を摘まみ取られた。

それをモニカはさっき俺がしていたみたいにクルクルと回し始めた。



「親から生まれて赤ん坊の時があって、少しずつ成長して立派な大人になって、今度は少しずつ老いていって…いつかは死んで土に還る」



まぁ私たち的に言うのなら輪廻に戻るってところかしら、と呟いてモニカは俺を見上げた。



「それを知っているから寂しく感じてしまうんじゃないの?」



生まれて、

成長して、

老いて、

そして死んで…


この世の中はそれの繰り返し。
植物も動物も人間も、何も変わらない。

みんな生まれて、成長して、老いて、死んで、土に還って転生の時を待つ。


そしてそれを見守るのが俺たち、闇の精霊使い。



「そう、なのかもな…」



生前の記憶はまだ全部思い出せないけど、途切れ途切れに思い出す。

闇の精霊使いとしての日々。輪廻を守る、何度も何度も見た人の死、報われない魂、輪廻に戻して、また魂を送って…


終わる事も無い、自身が死ぬまで続けなければいけない“仕事”

死んでもその魂は輪廻に戻って、転生の時を待つ。そしてまたこの世に生まれて、成長して…


終わる事の無い繰り返し。
途切れる事の無い生と死の繰り返し。



「俺たちも…いつかこうなるんだな」



この落ち葉みたいに。



「そしていつかは死んでしまう…永遠に生きられるものなんて無いわ」
「……現実的だな」
「事実よ、仕方ないじゃない。……でも」
「でも?」



モニカが足を止める。
仕方ないから俺も足を止める。

そしたら腕に寄りかかられて体重を預けられた。



「スレインがこの落ち葉みたいになっても…私はずっと傍に居てあげるから」



……………時々、モニカのストレートな物言いに驚かされる。と言うか、喜ばされる。
咄嗟に頭が対応出来なくて、反応出来たのは体だけで。

繋いだ手を離して隣に立つ愛しい彼女を抱きしめて。彼女の手も俺の背中へと回されて。
少しの間、互いに何も言わず互いの存在を確かめ合う。

止まりかけていた頭の回転が少しずつ回り始めると、俺はやっと口を開けた。



「……さっきのセリフ、普通俺が言わなきゃいけないよな?」
「…私は思った事を言っただけよ」
「いや、そうだとしてもなぁ」



冷静になってくるとモニカのさっきの言葉がより一層プロポーズみたいに聞こえてくる。
女の子にしかも5つも年下の恋人に、先にプロポーズの言葉を言われてしまう俺って…

いやいや違う、俺は断じてヘタレではない。



「だから…」



モニカがそう呟いたかと思うと、背中に回されていたハズの手がいつの間にか俺の首に回されていて。

それを理解した時にはモニカの顔がすぐ目の前にあって。

あ、背伸びしたのかと気づいた時には時すでに遅く。


俺の唇にモニカの唇が重ねられていた。


柔らかくて温かいそれが離れてもモニカの腕は離れなくて、すぐ目の前にモニカの顔がある。
顔が熱い、きっと情けないくらい赤くなってる。

でもモニカから目を反らせない。



「“次”は期待してるわ」



そう言ってモニカは年齢に似合わない大人の魅惑を口元に携えて微笑んだ。

あぁ…俺は一生彼女に勝てないんだろう。

そんな情けない事を予感しながら肯定の意味を示すキスを送った。



(色の移ろい)


どれだけ色が移ろいでも

どんなに季節が移ろいでも


この気持ちだけは移ろわない


・END・
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スレモニを書いてたハズなのに途中からモニスレになってた不思議←

ちなみにこの小説自体は去年の秋に思いつてて、やっと形に出来ました(笑)
季節外れにも程がある\(^o^)/