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……


いつからだろうか。



「…モニカ、今いい?」
「なに?今ちょっと手が離せないの…後にしてくれる?」



作業する手を止めないまま背中越しに返ってくる言葉。

そっけない返答。


だけど、声にはそっけなさは含まれていなくて…
こんな風に答えてくれる様になったのはいつからだろうか。


少しの間、黙って作業を続ける彼女の姿を見守る。

こっちに気をつかってるのが、気配でなんとなく伝わってくる。

出会った頃なら俺の存在なんて気にせずにいただろう。



「………なぁモニカ」
「…ちょっと待ってって言ったでしょう?集中出来ないわ」
「集中出来ないと困る?」
「当たり前よ、分かってるくせに聞かないで…作業を邪魔されるのが好きじゃないの知ってるでしょ?」



少し怒ったみたいな声音に変わる、それでも俺に応えてくれる彼女はやっぱり優しい。


――…でも、それじゃあダメなんだ



「じゃあさ、ハッキリ言ってよ『嫌い』だって」
「……え?」



モニカが作業していた手を止めて俺を見る、意味が分からないと言いたげな瞳で。




――――俺の意思と関係なしに勝手に生まれて、勝手に育つこの面倒な感情を打ち止めて。


いらないんだ。
このままでは、いられないんだ。この感情も、俺自身も。

邪魔になる。
俺にとっても、君にとっても
…『彼』にとっても。


だから消し去りたい、このまま抱えてなんていられない。



「…スレイン、どうしたの?」
「……なぁ、頼むよ…」




一度は死んだハズの魂が、


一度は消えたハズの感情が、


『彼』の体を通して感じる、



胸の奥に疼く熱を消し去って。


俺の心の内に生まれてしまった思いを消すのなら、

俺がまだ、此処に居られる内に…



「なに、言ってるの…冗談はやめて」
「冗談じゃない、だからモニカ…言ってくれ」



彼女のまっすぐな瞳が戸惑いと悲しみで揺らぐのを
俺はただ、瞬きも忘れて見つめていた。




(いっそ君から)


この気持ちを消すのなら、

俺の手ではなくて、


いっそ君の手で消して?


・END・
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シリアスと言うかネガティブ風に。
消える運命だから、消える前に思いだけでも自分の意思で消したいスレイン。