06
Ibの世界に来て、もうすぐ一週間が過ぎようとしている。
ギャリーの家に住むのも大分慣れてきて、何が何処にあるかなどは大体把握できるようになった。
一緒に住んでいてギャリーについて分かった事と言えば、朝は必ずブラックコーヒー(ちなみに今は夏だからアイスコーヒーである)。料理はまぁそこそこ出来る。結構キレイ好き。ニンジンとピーマンが苦手。
と、まぁ今はこれくらい。
ニンジンとピーマンの件に関しては私が爆笑してしまい、拗ねて暫く口をきいて貰えなかったのが3日前くらいの話。
あのときは笑ったわ。そりゃあもう机に手をバンバン叩きながらね。
そんな風に私の寝床であるリビングのソファーで物思いにふけっている私は、ギャリーが大学から帰ってくるのを待ち続けるいたいけな少女である。
しかし暇。
暇すぎて死んでしまいそうだ。
「ギャっちゃんはね、ギャリーって言うんだホントはね。だけどオネェだから自分ことアタシって呼ぶんだよ。おかしいね、ギャっちゃん」
即興で替え歌〇っちゃんを歌ってみるが誰も聴いていないから虚し いったらない。聴かれてても困るけど。
あー日本食が食べたい。焼き魚が食べたいな。さばだったら尚嬉しいかも。
外国の料理はカロリーが高そうな物ばっかり。正直デブらないか心配。
日本と言えば。
……向こうの世界で、家族は元気にしてるだろうか。
野球好きなアホな弟と、テレビでやってたアザラシの出産に本気で感動する母、そしてお酒を飲むと何故か笑いが止まらなくなる父。
そんな愉快な家族と暮らしてきた18年間。悪くないどころか、凄く楽しかった。
そう言えば、冷蔵庫のプリンに名前書くの忘れてた。誰かに食べられちゃうかも。
あ、提出しなきゃいけない数学の課題やってないや。
しまった友達に借りた漫画返してなかった。
今考えたら、やり残したことがたくさんある。数学の課題はまぁいいや。…プリンも、いっか。
…なんでだろう、どうしても満たされない。
ぽっかりと胸に穴が空いたような、そんな感覚。
あぁ、分かった。
「…ホームシックってやつ?」
そう呟いた後、思わず乾いた笑いが口から零れた。
18にもなってホームシックか。
たった一週間。されど一週間。これからどんどん月日が流れていくんだろう。
「…あーあー泣くな」
少し寂しくなって、涙が溢れ出てきそうになったのを上を向いて防いだ。
ホームシックって、こんな感覚なのか…。まえに一度だけ、中学の頃の修学旅行が楽しくなさ過ぎてプチホームシックになった事があったな。
そんなの、比でもないけど。
会いたい、会いたい、
「会いたい…」
家族に、友達に。
住まわせてもらっているギャリーに失礼だ。そんな事分かってるけど、家族を恋しく思う気持ちは捨てられなくて。
「っ……」
上を向いているのも意味を成さなくなり、ついに涙がこぼれてしまった。
窓の外は、もう日が傾いてきている。
…もうすぐギャリーが帰ってくるかもしれない。ギャリーが帰ってくる前に、気付かれる前に涙を止めなきゃ。
ギャリーに私の気持ちの問題まで心配をかけたくない。
だから、止まって。
…もう、会えないんだから。
そう割り切ってしまえば、簡単だ。
私の思いが通じたのか、だんだんと涙引いていくのが分かった。私は直ぐに洗面所に向かい、冷たい水で顔を洗った。
「………」
目の前の鏡を見つめる。目が少し赤くなってるけど気になる程じゃない。
…よし。
両手のひらをおもいっきり頬にぶつけると、パンッ、と何とも気持ちのいい音がなった。
「…痛い…とか思ってないし」
ツンデレのツンを演じてみた自分がキモかった。ギャリーいなくて良かった。
でも、まぁ。
「これで大丈夫だ、私」
鏡の中の私にそう告げて、ガチャッと音がする玄関の方へ向かった。
「おかえり!」
「ただいま」
私は笑えただろうか。
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