今、いくよ | ナノ
04

 
「トリップね…現実的じゃないわ」

「私もそう思う」


只今、ギャリーとお買い物中。一緒に住むとなると色々必要だから、と言って連れ出されたのである。


「なまえ、聞きたい事あったんだけど…」

「なに?」

「トリップして来たって事は、なまえはこの世界の事知ってるってこと?」

「あー…」


どう説明したらいいんだろう。もしかしたら、まだギャリーはゲルテナ展に行っていないかもしれない。


「この世界っていうか…えっと、ギャリーはゲルテナ展に行った?」


私が質問したとたん、苦い顔をするギャリー。


「行ったけど…あまり思い出したくないわね」


そう言って苦笑する。

…確定した。ここはゲルテナ展でギャリーが体験した後の世界だ。


「じゃあ、イヴ知ってるよね」

「えぇ、まぁ。って…どうしてなまえがイヴの事を知ってるの?」


若干驚きながら目を見開いてギャリーは言う。


私はギャリーに、私がいた世界でこの世界がどういう存在で、ギャリーとイヴが体験した事を知っているという事を話すと、案の定ギャリーは驚いて口を開けていた。


「信じられない…。だからなまえはアタシの名前を知っていたのね」

「そういう事です」


ギャリーに向けていた顔を前に戻して歩き直す。


「…もうひとつ、質問していいかしら」

「うん?」

「なまえは、何故ここに来たの?」

「何故って……」


私は考え込んだ。

階段から落ちた、だけ。
死んではいないかもしれない。

まぁ今ここに居るから、向こうの、本当の世界の私がどうなったのかなんて分かる術は無いんだけど。

…でも、例えば、あのときが死ぬ間際だったとして。

落ちていった時、この世界に来るまでの間に私が考えた事。


「私がギャリーに、会いたいって思ったから?」

「……!!」


"どうせならギャリーに一目会いたかった"

そうだ、確かにそう思った瞬間があった。


「人生って何が起きるかわからないね、ギャリー」

「……え、えぇ」

「…どうしたの?」


やけに動揺している様子のギャリー。

私が声をかけると、少しビクッと肩が揺れた。


「わ、私ギャリーを怖がらせるような事した?」

「いいえ、全然」

「え、じゃあ何でそんなに動揺してるの」

「気にしないで」


気にしないでと言われると気になってしまうのが私の性格なんだけど。

結局その後ギャリーに何度聞いても“気にするな”の一点張りだった。



***********






「マグカップ、ギャリーとお揃いにして良かったー」

「あの店員が勧めなかったら絶対お揃いになんてしなかったわ」


照れ屋さんだなギャリーは。

なんて思ってること、午後1時くらい。


「恋人に間違われちゃったね」


そう 、先ほどマグカップを買ったお店の店員さんに「恋人同士のお二人には此方がオススメですよ」と言われ、私はかなり上機嫌なのである。


「困っちゃうなぁ」

「本当にね」


ため息をつきながら言うギャリーに、その言葉は肯定ではない意味ということはひしひしと伝わってきた。

…いや、待て。こんな反応してるってことは、まさかギャリーにはもう可愛い彼女がいるのだろうか。


「ギャリーさん、あの、一つお伺いしてもよろしいですか?」

「なに?」

「……彼女さんはいらっしゃいます?」

「は!?」


ギャリーは目を見開くのが好きなようです。よく目玉飛び出さないね、すごーい。

ってそうじゃない!!

よく考えたら、こんなイケメンを世の女が放って置くわけないもんね…


「そりゃあ居るよね…イケメンは罪だね…」

「何勝手な事いってんのよ、いないわよ彼女なんて。まず興味ないし」


興味ないは置いといて、彼女がいないのか。


「なんだ、良かった」

「良かったってアンタ…何でそんな事聞いたの?」

「もしギャリーに彼女がいたら、事情があるとは言え他の女住むのはさすがに駄目でしょ」

「ああ、そういうこと」


ほんの少し、彼女が居ないことに安心した。勿論住む場所確保の安心もあるけど、別の感情も少なからずあった。


「ギャリー…」

「ん?」

「ギャリーの家に着いたら、ただいまって言っていい?」


私には居場所があると確認するように、ギャリーに問う。


「いいわよ」


その言葉に、私はホッと胸を撫で下ろした。

それに、とギャリーが言葉を紡ぐ。


「もうなまえの家みたいなもんでしょ う?」


ああもう、優しいなぁ。

ふとした優しさに鼻の奥がつんとした。


「ギャリーほんと、神だね」

「言ってる意味はわからないけど、誉め言葉として受け取っておくわ」

「誉めてる誉めてる!もう全力で誉めてるよ!」


それはありがとう、と頭をポンポンされる。


「えっへへ〜」

「…ニヤニヤしないでよ」

「微笑んでるの間違いじゃない」

「今すぐ全国の微笑みに謝りなさい」

「酷っ!」


こんな会話を永遠と繰り広げながら、私たちは家路を歩くのであった。


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