今、いくよ | ナノ
12



「 なまえちゃん、クロワッサン並べといてー」


「はーい!」


せっせと言われた通りにクロワッサンを並べる私は、バイトを始めてまだ1週間というド新人の なまえです。

バイトなんてしたことなかったから最初は不安があったんだけど、なんとも楽しい!
渚ちゃんは優しいし、店長(渚ちゃんのパパ)はとてもユニーク。

私以外のバイトの人とも仲良くなれた。


とても、充実している。



そんな事を考えていると、お店のドアがカランカランという音と共に開いた。


「いらっしゃいませ……って、また来たの?」


あきれたように口を開いたのは渚ちゃんだった。


「ひっでぇなー。またって言うけど、1週間はあいてたぞ!」


「聞いてない。用がないならさっさと帰れクズ」


「俺、一応客。わかってる?」


「消えろはげ」




目の前で繰り広げられているのは、罵声を浴びせる渚ちゃんとそれを軽く受け流している男の人の淡々としたバトル。


……あれ、渚ちゃんってこんなキャラだったっけ?


「ん?」


私と男の人との目があった。


「きみ、バイトの子?」


「え、あ、はい」


「ちょっと! なまえちゃんに気安く話しかけるな汚れる!」


パンを掴む為のトングを持ってカチカチカチカチと何回も鳴らす渚ちゃん。

パン屋さんの娘としてそれはどうかと思うよ、渚ちゃん……いや、分かるんだけどね?カチカチしたくなるよね。


「汚れるってお前ホントに口悪ぃなぁー」


「アンタにだけよ」


「まぁいいけど。あ、 俺アルカってんだ。よろしくな」


手を差し出されたので、私もあわてて手を出した。


「 なまえです。よろしくお願いします」


アルカさんの手を握って、ペコリとお辞儀をする。


「おーう、礼儀正しいな!」


ニカッと笑うアルカさんは、とてもいい人そうだと思った。なによりイケメン。


「さっさと帰りなさいよ」


「お前ほんとに可愛げねーな」


「あんたに可愛げなんてみせないわよ」


「可愛げスキルあんのか」


「くたばれカス」


また淡々としたバトルが始まってしまった。

この二人はどういう関係なんだろう?もしかして元カレ元カノの関係!?渚ちゃんがアルカさんのこと毛嫌いしてる理由って、アルカさんが渚ちゃんに振られてるけど付きまとってるから!?


「アルカさん……」


「お?どーした?」


「渚ちゃんに振られたからって、付きまとうのは違うと思います……」


「……は?」


「そりゃ、渚ちゃん可愛いし優しいし誰かに渡したくなくなるのは仕方ありません。でも渚ちゃんが嫌がるような事をするのは元カレとしてどうなのかと思います。分かってる筈です、だって前まで愛を誓い合って……」


「「ストップ!!」」


重なり合う、私を止める二人の声。

なんだ、以心伝心じゃないか。


「なんでしょう?」


「 なまえ ちゃん、勘違いっていうか……私達付き合った事なんて一度もないよ?」


え、


「アルカさんが振られて……渚ちゃんに付きまとってるんじゃないんですか?」


「ぶはっ!!んだそれ、お前の妄想能力はんぱねーな!」


ゲラゲラ笑うアルカさん。


え、じゃあなに、勘違い?
私が勝手に妄想して二人の関係作ってただけ……?






「…………ああああああ……」


恥 ず か し す ぎ る


「ごごごごめんなさい!!」


「いーのいーの、気にしないで……ってあんたいつまで笑ってんのよ」


「あはっは、腹痛ぇっ」


尚もわらい続けるアルカさんを見て穴があったら入りたい気持ちが押し寄せてくる。


「 ひーっひーっ……なまえ、おま、最高だわ」


笑いすぎだろ。

いや私が悪いんだけどね?どう考えても私が悪いんだけどね?そんな笑わなくたっていーじゃないか。


「ごっほん!!」


「「「…………あ」」」


「コラコラ、君たち。仕事もしないでなーにしているのかな?」


アルカの丁度真後ろに立って凄く怖い笑顔でこちらに問う店長。


「す、すいません店長……」


「パパごめんなさい……」


私と渚ちゃんはすぐさま店長に頭を下げる。


「まったく……アルカと言えどお客様なんだ。しっかり仕事をしなさい」


「ちょ、言えどってなんすか!」


仁王立ちでそう言った店長に、反論するアルカさん。

店長とも面識あったのか。


「アルカ……お前はいちいちうちの娘にちょっかいを出しすぎだ」


「いや〜すんません、面白くてつい」


「ついって何。それよりパン買うならさっさと買って帰ってくんない?」


「いんや、パン買わねぇよ。ちょっかい出しにきただけだか…」


「く た ば れ」


「ぐはぁっ」


渚ちゃんの右ストレート……きれいだ。

鉄拳をくらい倒れてしまったアルカさんは、ヨロヨロと立ち上がって「じゃーな」と言い残して帰ってしまった。

ちょっと待て、彼は何をしにきたんだ。本当に渚ちゃんをからかうためだけにわざわざ足を運んだというのか……アホだ……。


「ごめんね、アルカの野郎が……」


申し訳なさそうに謝る渚ちゃんに私は慌てて首を横に振る。


「ううん、私は全然大丈夫だよ!」


「ありがとう、あーもう なまえちゃん天使ー!」


「て、天使!?」


ありえない……それはない……
私が天使だったらイヴは全世界を統べる神様だろ絶対。


「あっれ〜?照れちゃった?」


「は!?」


「顔赤いよ?」


確かに、言われてみれば顔が熱くなっている気がしないでもない。


「誉められ慣れてない なまえちゃんも可愛いよ!ストライクだよ!」


いや、親指たてられても反応に困ります。

思ったんだけど、この一週間渚ちゃんのスキンシップが激しい気がする。もしかしてそっち系……?

と、密かに思うのであった。

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