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なまえからバイトの話を聞いたとき正直全く反対する気なんて無かった。でも何故あんなに渋ったのかと言うと、それはバイトをする場所に問題があった。
パン屋だからうんぬんかんぬんでは無く、パン屋にいる人物が問題なんだ。
「ねぇ貴女、私と一緒にティータイムでもどう?貴女みたいな可愛い子だったら私奢っちゃう!」
「あ、あの……」
ああ、噂をすればとはこの事か。
内心ため息をつきながら女の子を口説いている"女”のもとに足を運ぶ。
「ちょっと、渚。また女の子口説いてんの?」
「あれ、ギャリーじゃない!大学内で会うのは久しぶりだねー」
ヒラヒラと手をふる渚に、アタシは半笑いで近づく。
「あ、の……時間がないのでそろそろ……」
渚に口説かれていた女の子がおずおずと言ってきた。その様子を見た渚が残念そうに口を開く。
「え、予定あったんだ……じゃあまたティータイム一緒にしよーね」
「はぁ……じゃあ」
「バイバーイ」
女の子に笑顔で手を振り、私の方へと向く渚を呆れた表情で見返した。
「アンタってホントに女の子好きね」
「だって可愛いじゃん!」
へらっと笑う姿は普通の女の子と変わらないのに……この変わった趣味(?)があるから、 なまえを渚のもとで働かせるのを躊躇したのよね。
渚はこの美大で初めて出会って、変わった性格同士(アタシは断じてオネェではないけど)意気投合したアタシ達はこうしてよく大学で一緒にいるのだ。
「あっそーだ聞いてよギャリー!」
「なによ」
「うちに新しくバイト入ったんだけど、その子日本人で超かわいいの!」
うわ、まさかのその話。
「へぇ……そうなの」
「うわぁ、なにその興味無さげな返事」
興味ないんじゃなくて、知られたらダメだろうと隠して演義してるだけなのだけど。
「ま、いーや。見にこいない?その子!」
「はぁ?」
「かわいいんだよ!抱きつくと照れるし、照れ笑いしたその顔!」
「照れっ………!?」
照れ笑い、ですって!?
「お?おお〜??ホモォなギャリーが興味を持っている!」
「ホモじゃないわよ!いい加減その勝手なイメージやめてくれる?!」
「ごめんごめん、嘘だってば〜」
ケラケラと笑う姿は面白がっているようにしか見えない。
この子といると、ホントにペースが乱されるわ……
「でも、どうしてさっき照れ笑いで反応したの?まさかギャリーのキュンキュンポイントなの?」
「なにそのポイントの名前ふざけてんの」
「ふざけてないって!ね、いーじゃん見に来てよ、ついでにパンも買ってって!」
「パンの方がついでなのね」
まるで興味がない、と言った風にアタシはスタスタと歩き出す。
内心焦っているだけなんだけど……
だって、もし なまえと一緒に住んでる事が渚にバレたら絶対面倒な事になりそう。てか目に見えている。
「ねー、ギャリー見においでって!女の子に興味がないホモォのギャ」
「だっから!!!アタシはホモじゃないってーの!!むしろ!!女の子に興味ありありだっつーのーー!!!!」
そう、その声はやまびこのように大学中に広がった。
「うっわギャリー恥ずかし……他人のフリしよー……」
「はぁ、はぁ……は、え?!」
アタシの出した大声は、まぁ見事に大学中に響いていた。だから、視線がアタシの方に向くのも自然な訳で。
なに今の、やら、何言ってるのあの人、やらヒソヒソと声が聞こえてくる。
うわあああああ!!あり得ない、最悪!!
一気にアタシの顔に熱が集中するのがわかる。しかもアタシにこんなことを叫ばさせた当の本人はその場から忽然と姿を消していた。
「っ、なぎさああああああ!!!!」
またしても、ギャリーの叫び声が大学中にひびくのであった。
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「お帰りギャリー……って、どうしたの?」
「ただいま………… なまえ、バイト頑張んなさい……」
「え?う、うん」
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