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私は今悩んでいる。
それはもうとてつもなく悩んでいる。
「ね、お願い! なまえちゃんがいてくれたら楽しいし、パパも なまえちゃん気に入ってるし!」
「う〜ん……」
今私は渚ちゃんに猛烈なバイトの勧誘をされている。毎日暇をもて余してゴロゴロしてる私にはもってこいの話で、私としては大歓迎なんだけど……。
ギャリーがなんて言うかが問題なんだよなー。
「ダメ?」
「……家の人に聞いてみるね」
「ほんと?じゃ、連絡先渡しておくね!結果がわかったらすぐにでも連絡してね!」
渚ちゃんの笑顔は、それはもう期待してますって顔で。
これは全力で説得しなきゃいけないな。
*******
「ただいま」
「あっ、お帰りなさい」
帰ってきたギャリーの元に私は小走りで出迎える。
「ねぇギャリー!」
「なに?」
「お願いがあるんだけど……」
「お願い?」
持っていた荷物を下ろしたギャリーは、ソファーに座り私の話を聞く体制になった。
「バイト、させてほしいの」
「バイトって……なんでまた」
私は、先ほどの出来事をギャリーに話した。
「ふーん……そんなことがあったの」
「うん。駄目かな?バイト」
考え込むように眉を潜めるギャリーを、不安に思いながら見つめる。
「………………」
ついにはうしろを向いて顎に手を添えだした。
このパターンは駄目かな、と頭の中でテンションを下げてしまう。
私の理想としては
「ギャリー、バイトしていい?」
「バイト?いいわよ別に」
「さっすがギャリー!器がでかいね!」
「誉めても何にもでないわよ」
みたいな事になるのを予想していたのに。ちなみに私の妄想の中でのギャリーはツンが基本である。
未だ考え続けているギャリーを見ているのも飽きてきた私は、取り敢えずテレビのリモコンを持ってチャンネルを変えてみたり、意味もなく貧乏ゆすりしてみたり、ギャリーの私物を漁ろうと鞄に手をかけたりしている。
「なにしてんの」
しまった見つかった。
「カバンにホコリがついてたから、」
「そう……じゃあ何故手がカバンにの中に入っているの?」
「ギクッ」
「…………」
自分で口に出して言った効果音が逆効果だったらしい。ギャリーの顔が恐ろしいです。
「スイマセン」
「………………まぁ、いいわ」
なにその顔!なに如何にも許してないけどねみたいな顔しちゃってんの!!
「バイトの事だけど、良いわよ」
「ウホ?」
「ウホってなに」
ギャリーの表情に気を取られていたせいか、許しの言葉が不意打ち過ぎてゴリラみたいな返答をしてしまった。
「い、いいの?」
「ええ、別に良いわよ」
「やったあ!ギャリーってば器がでかいね!」
「誉めても何にもでないわよ」
ん?なんかどっかで聞いたような台詞だけどそんなことはどーでもいいや。
「ありがとギャリー。早速電話して、バイトオッケーだって言ってくるねー!」
私は受話器があるところに上機嫌で駆け出し、渚ちゃんに早く連絡しようとウキウキしながら電話のボタンを押すのであった。
ギャリーがその姿に複雑そうな視線を送っているのに気付かずに……
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