赤司征十郎という男は、私の中で面倒な人になりつつあった。 「毎日毎日何なんですか」 『僕が会いたいから会いに来てるんだ』 「飽きないですね」 『飽きないよ』 あれから毎日私の家へと足を運ぶようになった赤司征十郎。出るのも面倒だし、会うのも嫌なのでインターホン越しの会話である。 「もう、お願いだから帰っ……」 『あら?あなた……名前のお友達?』 耳に聞こえるのは聞き慣れた母の声。まずい。そう思った時にはもう遅かった。 『はい』 『あら、そうなの!どうぞ、入って』 ガチャリと玄関のドアが開き、何やら会話している声が聞こえる。私は壁に手をついてありえない、と呟いた。 「ただいま名前」 「…………おかえり」 「お邪魔します」 「お邪魔しないでくれますか」 キッと睨むも、赤司征十郎は怯みもせず薄く笑っていた。お母さんが家に入れてしまってはもうどうすることも出来ない。そう思った私は逃げるように二階へと足を進める。 「ちょっと、名前!せっかくお友達が来てるのに置いていくつもり?」 「友達じゃないから!!」 階段の途中で声をかけられ、私は思わずそう叫んだ。無駄に足音を立てて残りの階段をかけ上って行く。そしてまた、無駄に音を立てて自室のドアを勢いよく閉めた。 「何なのよ……何なのあの人はっ!」 ベッドに置いてあるぬいぐるみを思い切り抱き締めながらうずくまった。 すると、ドアが開く音が確かに聞こえる。まさかと思い顔を向けると、案の定そこにいたのは赤司征十郎で。 「な、な……!」 「久しぶり。案外女の子らしい部屋だね」 「ふ、不法侵入っ……出てってください!」 「君の母親に許可を取ってあるよ」 さらっと言った赤司征十郎。私はまるで手負いの獣のように警戒心を解かないで、胸の前で強く手を握っていた。 「君が学校に来ない理由」 そう遠くない私のいるベッドの位置に移動した赤司征十郎は、そのまま私のそばに腰を下ろして言葉を紡いだ。 「苛められていたんだってね。中学の時」 ピクリと反応した。 「……仲間はずれにされてただけです。そんな、壮絶ないじめとかありませんから」 ぶっきらぼうに答える。 これは本当の事だった。中学の時、仲の良かった5人グループの中でだけの話だ。仲間はずれにされたこと意外、何もされなかった。 「それでも、やられた方は傷付く」 「……そんなことないです。そんなことで傷付くほど柔じゃないですから」 「いや、君は確かに傷付いていた。だから一人で行動してたんだろう?」 「違います」 心臓はドクンドクンと鳴っていた。違う、違うと頭の中で否定する。 一人で行動していたのは、面倒だったからで、 「本当は、面倒なんじゃなくて怖いんじゃないか」 「違います……!」 私は決めたんだ。もう面倒事に巻き込まれたくないから、一人でいようって。 「……、悪かった。泣かせるつもりは無かったんだ」 私はいつの間にか泣いていた。図星だったのだ。赤司征十郎の言う事は、全部当たっていた。それを否定している自分が情けなくて……言い当てられる事が怖くて。 ぬいぐるみに顔を押し付けて、声を出さずに泣いた。 back |