「僕は……君に惹かれてる」 赤司君が発した言葉が信じられなくて、嬉しくて、でも勘違いかもしれない。恋愛感情としての言葉だったのかそれとも違うのか……何故か疑り深くなってしまう。でも、真剣な目は嘘を言っているようには見えない。 「ひか、惹かれてるというのは……」 「君はそこまで鈍感じゃないはずだろ?」 「……っ」 言葉通りの意味で受け取って良い。赤司君の口から発せられた言葉は、つまりそういうこと。 こんな嬉しいことがあって良いのだろうか。今まで家に引きこもっていた臆病な私に。 視界が涙でぼやけていく。私は両手で顔を覆い、声を圧し殺して泣いた。 「……名前?」 私の名前を呼ぶ声ですら愛しく感じる。なのに、嬉し涙と共に私には違う意味の涙も流れていた。私には、赤司君の恋人でいる自信が無い。遠くにいってほしくないなんて独占欲の剥き出した感情はあるくせに、私が赤司君の隣に居る自信が無いのだ。 さっきの出来事を思い出していた。私は中学の時の事を心から乗り越えた訳じゃない。言い返せはしたのに、結果吐いてしまった。そしてまだ学校にも行けていない。 面倒な女、だ。 「名前。顔を見せて」 赤司君がそう言うのだが、顔を覆う手を離すことができない。 「僕としては、告白して返事を貰えていない複雑な心境なんだけど」 はっとした。赤司君に言われて初めて気がついた。私は手を顔からゆっくり離した。手のひらと顔はは涙で濡れていた。 「……悲しそうな顔してる」 「……っ」 「ごめん」 違う。赤司君は何も悪くない。泣いてるのは赤司君のせいじゃない。 「私は、赤司君が、好きです。……でも自信が無い」 「自信?」 好きだけど、自信がない。なんて狡い言い方だろうと心のなかで嘲笑った。 「学校もちゃんと行っていない女が僕の隣に居ても、胸を張って一緒に歩けない?」 私の心が読めるかのような赤司君の言葉に目を見開いたが、すぐに視線を下に落とした。 赤司君が言っていた通りだ。自分に自信が持てない。赤司君が私のことを好きだと言ってくれたことすら奇跡に近い事なのに、私にはそれを返せるような、赤司君にふさわしい物を持っていない。 「それでも名前が好きなんだ。……一緒にいてくれないか?」 その言葉を聞いて、そっと赤司君を見る。 どうしてそんなに、愛しそうな目で見るの。 私にとってそれは嬉しくて、幸せで。 やっぱり、私は赤司君が好きだ。 「っ好き、です……赤司君が好きです……!」 あなたの隣にいたい。溢れだしてしまいそうな好きの気持ちは、言葉となって出てきた。 こつり、と額にほんの小さな、痛みもないような衝撃。赤司君の額と私の額がくっついていて、息の音が聞こえるくらい距離が近い。 「一緒にいよう」 その一言で、また涙が出て止まらなくなった。 back |