the irony of fate | ナノ


「ここは……」

「見ての通りだよ」


私達の視線の先に、子供たちが楽しそうな声を上げて思い思いに遊んでいる姿が目に入った。そしてその子供たちの母親であろう人達は、我が子のはしゃぐ姿を目に焼き付けつつママ友とお喋りを楽しんでいる。

私が赤司君に連れて来られた場所は、普通の休日の公園だった。


「あの、ここで良かったんですか?」

「ああ。煩すぎる所は苦手でね」


抜け目のない赤司君は、きっと私に気を使ってくれたんだろう。人が多すぎる所より、多少賑やかであるものの、落ち着けるような場所をわざわざ選んで連れてきてくれた。


「名前、敬語」

「あっ」

「……ゆっくり直してくれればそれで良い」


赤司君は苦笑してから、歩こうかと私に告げゆっくりした歩調で歩き出した。


「名前と一緒に歩ける日が来るとはね」

「私も、こんな事になるとは思ってもみなかった」


久し振りの遠出。近所だけど、今の私にとっては少しだけ遠出した気分だった。
憂鬱でしかなかった外は、少し前向きな気持ちでいるだけで随分違うんだと実感した。


「名前」

「は、はい」

「緊張してる?」

「緊張……」


少し考える。確かに、久し振りの外ということで眠りが浅く、しかも赤司君とのデートで着て行く服を決めるのに時間がかかってしまい、夜更かしもした。コンディションは最高とは言えない。でも、何故か緊張はしていなかった。


「今は大丈夫です……じゃなくて、大丈夫。一人だったらキツかったかもしれないけど」

「そうか。気分が悪くなったら言ってくれ」


そう言い私に手を差し出した。


「……え、あの」

「デートだからな」


それはつまり、手を繋ぐと言うこと。周りから見たら当然恋人同士に見えるだろうその行為に、体温が上がっていくのが分かった。


「名前?」


催促するような視線に、私は諦めておずおずと手を差し出した。

この人は私の事をどう思っているのだろう。やっぱり女の子をデートに誘うということは、そういうことなのではないか。

そんな事を一瞬で考えていると、赤司君の手にたどり着いた。最初に触れた私の指先を少し後ろに引いてしまったのだが、赤司君の手がすぐに私の手のひらを包み込んだ。


「わ、笑わないで下さい」

「ふふ……いや、可愛いと思ってね。女子の事をそんな風に思ったのは初めてだ」

「っ、」


率直過ぎる言葉は私の心臓に悪い影響を与えた。


「やめてくれますか……」

「どうして?」

「こ、こういう事に免疫が無くてですね、」

「思った事を言っただけだよ」


それを、やめてくれと言っているんだが。

そう思いながら、尚もゆっくりしたペースで公園内を歩き回った。



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