世界にひとり
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目が覚めると、いつもの高い天井が見えた。




隣には……誰もいなかった。
どこにも、もう1人分の存在はなかった。


何一つ不自然ではない部屋。

そこには叶華のものもあったはずなのに。





屋敷の者たちは皆、何事もなかったかのように挨拶をしてくる。

……いや、長くこの家に使えている老人たちは皆一様に暗い顔をしている。

そして何より、父が赤く腫れた目で憎悪と侮蔑の視線を向けていることが、先日のことが夢でないことの証明だった。


僕はそんな父がいて嬉しかった。

叶華が存在した証、愛してくれる人がいた証拠だから。



でも、そんな父も家を追われた。

僕を殺そうとしたから。

そして祖母が仕向けた追っ手に殺された。

僕の周りから、僕にとって価値のあった人たちがいなくなった。誰ひとり。















だから僕は5年後、一族全員を殺した。














最後に残しておいた祖母。


小さな箱にすがりついて何度も僕に謝った。
でもそんなものに意味はない。

原型がわからなくなるまで踏み潰した。

少しも躊躇はしなかった。同情も。



だって叶華を殺したのだから。



事実はそれだけ。
それだけで十分だった。

その箱の中に埃1つ無く叶華の遺品が詰め込まれていたとしても。

僕にはもう、どうでもいいことだった。





それから三日三晩、その遺品の前で膝を抱えていた。


僕には叶華の死を悼む権利なんてない。
叶華を死に追いやったのは僕でもあるのだから。

あれから毎日考えて出した答えだった。



幼い僕らでは、流魂街で生きていけない。
目の見えない叶華がいれば、尚更。



叶華にはそれが分かっていた。

でも当主争いなんてこともしたくなくて、弟の僕に迷惑がかからないよう、身を引いた。







「ごめんなさい、叶華……」



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『お二人とも稀に見る才能の持ち主で』
『だからこそどちらか選ばねばならぬなど…』
『お二人なら、最善の答えが出せたかもしれないのに』

「(僕がもっと話し合っておけば……)」


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