![]() == == == == == 目が覚めると、いつもの高い天井が見えた。 隣には……誰もいなかった。 どこにも、もう1人分の存在はなかった。 何一つ不自然ではない部屋。 そこには叶華のものもあったはずなのに。 屋敷の者たちは皆、何事もなかったかのように挨拶をしてくる。 ……いや、長くこの家に使えている老人たちは皆一様に暗い顔をしている。 そして何より、父が赤く腫れた目で憎悪と侮蔑の視線を向けていることが、先日のことが夢でないことの証明だった。 僕はそんな父がいて嬉しかった。 叶華が存在した証、愛してくれる人がいた証拠だから。 でも、そんな父も家を追われた。 僕を殺そうとしたから。 そして祖母が仕向けた追っ手に殺された。 僕の周りから、僕にとって価値のあった人たちがいなくなった。誰ひとり。 だから僕は5年後、一族全員を殺した。 最後に残しておいた祖母。 小さな箱にすがりついて何度も僕に謝った。 でもそんなものに意味はない。 原型がわからなくなるまで踏み潰した。 少しも躊躇はしなかった。同情も。 だって叶華を殺したのだから。 事実はそれだけ。 それだけで十分だった。 その箱の中に埃1つ無く叶華の遺品が詰め込まれていたとしても。 僕にはもう、どうでもいいことだった。 それから三日三晩、その遺品の前で膝を抱えていた。 僕には叶華の死を悼む権利なんてない。 叶華を死に追いやったのは僕でもあるのだから。 あれから毎日考えて出した答えだった。 幼い僕らでは、流魂街で生きていけない。 目の見えない叶華がいれば、尚更。 叶華にはそれが分かっていた。 でも当主争いなんてこともしたくなくて、弟の僕に迷惑がかからないよう、身を引いた。 「ごめんなさい、叶華……」 == == == == == == == == == == 『お二人とも稀に見る才能の持ち主で』 『だからこそどちらか選ばねばならぬなど…』 『お二人なら、最善の答えが出せたかもしれないのに』 「(僕がもっと話し合っておけば……)」 ← | |