![]() == == == == == ズズ…… 何かを引きずる音に、言い争っていた大人たちは襖の方に視線を集める。 家老が恐る恐る開ける。 「っ……惣右介様っ。 このような時間に何を……」 自分と変わらない大きさの何かを抱えたまま、部屋に入る。 その表情は憔悴しきっていて、今にも泣きそうだ。 「……叶華が……叶華がっ」 青ざめた顔で口から血を流す叶華。 動揺する大人たち。 だが、祖母だけは違った。 「我が藍染家の当主となるものがその様な顔をするでない!」 伸びてきた手が叶華の髪を掴んで乱暴に奪い取っていく。 「こんな"どこの馬の骨とも知れぬ小娘"一人死ぬからどうしたのじゃ?」 「待って……止めて婆様っ。 叶華を返して、僕のお姉ちゃーー」 「この家に生まれたのは惣右介ひとり! お前を惑わす小娘など、」 惣右介を突き飛ばし、祖母が懐剣を抜いた。 父が鬼の形相で刀を抜こうとしている。 それを必死で押さえようとしている臣下がいて、 僕はーー……。 「こうしてくれる!!」 ゴトリ 僕の足元まで転がったそれ。 「………叶華…?」 「貴様よくもっ!」 父の怒り狂う声も、祖母の高笑いも、何も理解できない。 触れようと手を伸ばしたそれは祖母が毬のように蹴って、転がった先の女たちが悲鳴をあげながら蜘蛛の子を散らすように逃げていく。 「そんなもの、今ここで焼き尽くしてくれる!」 「お止めください! せめて安らかに弔って差し上げねばーー」 祖母は首を抱き庇った家老ごと、叶華を焼いた。 廃炎で炭も残らず消え去った2つの存在。 僕は"唯一の家族"を失った。 == == == == == == == == == == 「この家には初めから惣右介かおらんかった!そうじゃろう?」 「………………はい、」 「さあ、はよぅ屋敷を整えぬか!」 「畜生にも劣る老害が……!」 「はんっ、この家に残りたくば小娘の物は全て処分せよ!」 ← | → |