継ぎ接ぎの愛
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「私には君の力が必要だ、織姫。君の其の力を私のために使ってくれるね」



藍染さんはあたしに崩玉を見せた。
あの人は"信頼の証"と言っていたけど、きっと本当は違う。

だけど、少なくとも崩玉の在り処は分かった。

そして、あたしの能力のことも…。




"起こった物事其れ自体を否定し、事象そのものを消滅させる"




あたしにしか出来ないこと……。

あたしの能力で崩玉を存在する前の状態に返す――…!!










「1つ、君に頼みたい事がある」


そう言われて、今は部屋の奥へ連れられている。進めば進むほど闇が濃く、空気が鋭くなっているかのように感じる。

着いたのは殺伐とした広い部屋で、横に長い大きな椅子と直方体の箱があった。

先程のような闇を感じることはないけど、圧し潰されてしまいそうな孤独感や寂しさに見舞われた。


「…おいで」

自分の意思で行動することが恐ろしくて、息すら浅くなっていた。固唾を呑んで足を1歩踏み出した。

藍染さんは私に箱の中を見るように促した。


「…っ!」





其の中に女の人がいた。

溢れんばかりの真っ白な薔薇
陶器のような白い肌と映える黒髪
精巧な人形のように綺麗で静かな表情





「綺麗だろう…。
彼女は叶華と言ってね、織姫と同じ現世の人間だ」


現世の人……そんな人がどうして此処に――…。もしかしたら、あたしと同じように連れて来られたのかな?

でも、どうしてだろう――…。

私にはこの白い箱が棺に思えてならない。


「まぁ、霊体を認識できる程度で、君ほど特殊な人間ではないが」


藍染さんは叶華さんに近付いて、優しく頬や髪を撫でていた。
其の姿は、多くの人を騙し裏切った人とは思えなかった。

「………見ての通り、」

振り返った藍染さんの瞳は暗く淀み、其の奥の感情を隠そうとしているように見えた。




「叶華は既に亡くなっているんだ」




やっぱり、と思ってしまった。

人の死んだ姿なんて見たことはない。……でも、叶華さんが生きていないことは何となく分かった。

「もう何十年も前のことだ……」

藍染さんが叶華さんの髪を弄っていて、一瞬だけ見えた。

「其の首の傷は……」

「ん?……あぁ、これかい」

藍染さんが首元の髪を払い、見せてくれた。

ぐるりと1周、傷跡が張っていて、とても痛々しかった。ただの切り傷でないことはすぐにわかった。



1度切り離した後、再び繋ぎ合わせたような………。しかも、傷跡の両側は皮膚の色が若干違う。





「この体は"継ぎ接ぎ"でね、叶華はもう頭部しか残っていないんだよ。

今君が思っている通り、1度切り離し再び繋ぎ合わせている。

出来るだけ叶華に似せて繋げたんだが……どうも上手く仕上がらなくてね。元の体と比べると、肌の色も質感も艶も劣ってしまう」





なんて恐ろしいことをっ……!

其れに其の言い様は、藍染さんが切って繋ぎ合わせたってこと……?

あんなに優しく触れていたのに、殺したの……?


一気にこの部屋が怖くなった。


「其処へ織姫、君がやって来た」

あたし……?

「其の力で叶華を繋いでもらいたい。
生き返らせることは無理でも其れくらいは出来るだろう」

ぁ、貴方は……叶華さんで何をしたいんですか、叶華さんをどうしたいんですか。

勝手に切り刻まれて、他の人の体に繋げられて……其れだけでも可哀想なのに、これ以上なにをするんです………!?


「今日はもう疲れただろう。
明日、再び此処へ来てくれるね」










ウルキオラさんが迎えに来た。


「後は任せるよ、ウルキオラ」
「はい」

ウルキオラさんの後ろから見えた藍染さんは此方を向かずに言っていた。

視線はずっと叶華さんに向いていた。




白薔薇を一輪手に取り、簪を挿すように叶華さんの黒髪に飾っていた。



どこか満足げ、でも少し寂しげな目をしていた。

「叶華、……」

其の優しい響きに、何か意味があると思った。



((思いを馳せる))
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「ウルキオラさん、叶華さんってどんな人だったんですか?」
「"さん"はいらん。………至って普通の、静かな女だ」


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