恨みはないです、はい
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叶華は目の前の惨劇を、雑草でも眺めるように見ていた。





逃げ惑う暇もなく斬殺されていく四十六室の老人たち。

老害とは彼らの為にある言葉なのではないかと思えてしまうほど、無様で醜く憐れで、自らの保身にばかり走ろうとする。

襲撃してきた隊長の肩書を持つ死神に命乞いする。



「そこの女!早ぅ奴を捕らえよ!!!」

「儂を助けよ!!さすれば脱獄は不問にしてやろう!」



死神の斬魄刀が次々に斬り殺していく。命乞いが通じないと分かれば、ただ座っている叶華に口汚く命令してきた。

退屈そうに欠伸をすれば"友人"が呆れたように笑った。

それこそ雑草を払う様に喉笛を切り裂く。







「嫌だなぁ……私ごときが隊長に敵うわけないじゃないですか。
そもそも、誰かを助けるのは私の仕事じゃありませんし」






『そもそも』の話をするなら叶華は丸腰だ。

欠片のやる気も見られない。



「珍しく饒舌じゃないか」


一つ、また一つ命を刈り取りながら友人が話しかけてきた。

器用なものだな、とつくづく思う。
叶華の戦闘力は彼の足元にも及ばない。


「まぁ…御贔屓様だったし…?」



首を傾げて答えると丁度最後の1人を殺し終えたようだ。












「すっきりした?」

斬魄刀の血を払う男に声を掛ける。
白い羽織の『五』の文字が振り返ったことで見えなくなる。




そう、彼は五番隊隊長、藍染惣右介だ。

「すっきりも何も、僕は彼らと面識があるわけでも恨みがあるわけでもないんだけど……まぁ、邪魔だからね」





怖いなぁ、なんて冗談めかして言う。

「叶華こそ清々したんじゃないかい」

「そういう感情は持ち合わせてないんだよね」

言い換えれば、斬殺体がたくさん転がるこの状況で尚、冷静…いや、平静でいられるくらいには壊れている。


「藍染くんこそ饒舌だけど、良い事あった?」

「あぁそうだね、あったかもしれない」

相変わらずはっきりと言わない友人。

叶華は自分が頭の切れる人間だとは思っていない。

50年ほど共に居るが、意図を理解できた試しはない。だから分からないことは分からない、言葉通りに受け取っておく。





「さて、命令も出したから戻るとしよう」



鏡花水月を使ったのか、死んだはずの老人たちが普通に座っている。


「んー…何回見てもすごいなぁ」

「叶華、行くよ」

促されて立ち上がる。
好奇心であの幻に触れてみたかったのは秘密だ。










「ねぇ藍染くん、そろそろ牢屋に戻りたいんだけど」

「おや、折角出してあげたのにかい」

「んー…頼んだっけ?覚えがないなぁ…」

「丁度話し相手が欲しくてね」

「難しい話は苦手なんだけどなぁ……藍染くん賢いし」



((必要だからやってるだけだよ))
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「叶華は思ったことをそのまま言ってくれるだけでいいんだよ」
「難しい上に興味のない話に思うことなんてないよ」
「長い付き合いだが、叶華が興味を持ったものはなかったと記憶しているんだが」
「んー……拷問器具とか殺さない様にいたぶる方法とかなら詳しいよ?」
「殺してしまうから必要ないかな」


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