![]() == == == == == 「時が経つのは早いものだねぇ。 主に会ったのが昨日のことみたいだよ」 僕は主が休むその傍で感慨深く呟いた。 初めて肉の体を得た時、目の前にはとても嬉しそうな顔をした人間がいた。 このお人好しは僕の名前を"変わっているけど覚えやすくて良い"なんて言って笑った。 主は"にっかり"というのが気に入ったらしい。 僕に度々笑顔を求めてきた。 別に笑うのは苦じゃなかったから、主が喜ぶならと笑顔でいた。 でも、月のもので苦しそうな時まで笑顔を求められた時は困った。苦しむ主に笑顔を向けて良いのか、なんてらしくもなく迷った。 主が笑顔なら僕も嬉しい。いつしか無意識に笑っていた。 「そう…かい? ……あたしにゃ昔の話すぎてはっきり思い出せんよ……」 残念、と笑えば主も小さく笑った。 本当に残念だ。 僕はこんなにも主のことを覚えているのに。 でもまぁ仕方ないか。 主は人間だから。 人間だから僕たちの生に付き添えず死に行くことも。大切な記憶が抜け落ちていくことも。 そう、全部仕方ないこと。 大丈夫だよ。 主が人間だからといって、人ならざるものにしようなんて思わないよ。僕はにっかり青江だからね。 命の大切さはちゃんと理解しているさ。 この世で僕にとって何よりも尊い主の命を弄んだりはしないよ。 化けて出た主を斬る刀にはなりたくないからね……。 ((だから、ね?自分の寿命を生きなよ)) == == == == == == == == == == 「……障子を…開けておくれ」 「駄目だよ。外は冷えてるんだ」 「新鮮な空気が欲しい…」 「おやおや、ワガママだねぇ」 | → |